【第196回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第196回】柚月裕子『誓いの証言』
第十二章
自宅の裏庭にある
古くは磨きもすべて手作業でしていたが、いまでは機材の性能の向上で、手間と時間を大幅に減らすことができるようになった。しかし、最後はやはり人が仕上げる。減らすことができた手間と時間を、人の手でしかできない細かい作業に割り当て、以前と変わりない品質のものを、効率よく世に流通させることができるようになっていた。
「お父さん、お客さん」
工場の入り口から娘の恵が顔を出した。
寝起きなのだろう。パジャマと部屋着を兼用している、上下セットのジャージ姿だった。大橋は手を止めて恵に言う。
「年頃の娘が、もうちょっと着るものに気をつかったらどうだ」
恵は今年、成人式を迎えた。妻の夏美が持っていた振袖を着たときは、我が娘ながらなかなか見栄えがすると思ったが、普段は親が心配するほどファッションには無頓着だった。
父親の小言はいつものことだからか、恵は大橋の言うことには耳も貸さず工場を出ていく。
「まったく――いったい誰のおかげで大きくなったと思ってるんだ」
ぶつぶつと独り言ちていると、そばにいたアルバイトが笑った。
「俺も親父によく言われます。どこも同じですね」
言われて気恥ずかしくなった。昔、自分も父親から似たようなことを言われた。そのときは、親父のような父親にはなるまいと思ったが、いま自分が同じことをしている。世の中はすべて順番なのだろうか。
そんなことを考えながら、首にかけていた手拭いを外したとき、ふとある顔が浮かんだ。
晶だ。
(つづく)
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