【第195回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第195回】柚月裕子『誓いの証言』
「へえ、それで朝からうどんですか。どうでした、本場の讃岐うどんは」
空港に着いてすぐにうどんを食べた理由が小坂が言い出したからだと知った清水は、バックミラーで小坂を見ながら訊ねた。
小坂は運転席と助手席の隙間から前に身を乗り出し、嬉々として答えた。
「水がいいからでしょうか。ほかで食べるうどんとまったく違ってました。麺が引き締まってるって言うんでしょうか。コシがあって最高でした」
清水は自慢げに言う。
「そうですね。水がいいこともありますが、なにより職人の腕ですね。うどんは小麦粉、塩、水だけで作るんですが、これをどれくらいの配合にするかとか、どれくらい練るかとか、そのときの天気や気温で違ってきますから。そこは熟練した職人たちの経験と勘が冴えるところです」
「職人といえば――」
佐方はそこで今日の本題を切り出した。
「今日、お会いする方のことを、教えていただけますか」
清水は電話では、これから会う関係者のことを詳しくは言わなかった。急に相手の都合が合わなくなるとか、不測の事態で会う予定をしていた相手が変わる可能性もある。個人情報の扱いが厳しいいま、むやみに相手の素性を伝えることは避けたい。当日、はっきりとその人物に会えると確信が持てるまで伝えるのは控えさせてもらう、というのが理由だった。
清水はハンドルを握りながら、名前をつぶやいた。
「今日、お引き合わせするのは、大橋猛さんという方です」
(つづく)
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