【第194回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第194回】柚月裕子『誓いの証言』
会計を済ませて、店を出る。待ち合わせ場所のターミナル中央出入口に行くと、紺色のスーツ姿の男性が立っていた。
清水だった。顔は、彼が勤めている弁護士事務所のホームページで確認していた。写真のとおり、優しそうな――言い換えれば気弱な感じに見える顔立ちだった。
清水はふたりを見つけると、駆け寄ってきた。
「佐方さんですよね。ご連絡をいただいた、平尾弁護士事務所の清水です」
清水はジャケットの内ポケットから名刺入れを取り出し、中身を一枚差し出してきた。佐方も自分の名刺を渡す。佐方の名刺を、自分の名刺入れにしまいながら清水が訊ねた。
「どうしましょう。行き先の蕃永町には、三十分あれば着きます。お疲れでしょうから、どこかでお茶でも召し上がりますか?」
佐方は清水の心遣いに感謝しつつ、丁重に断る。
「空港に着いてすぐ、ターミナルのなかにある店でうどんを食べたんです。そこでひと休みしたので、こちらのことはご心配なく。できれば、早く引き合わせていただく方に会いたいのですが」
清水は頷いて、佐方たちを出入り口へ促した。
「車を駐車場に停めています。こちらです。どうぞ」
あとをついていくと、清水は駐車場に停めてある、落ち着いた感じのセダンを示した。勧められるまま、後部座席に座る。清水はエンジンをかけると、車を出した。
清水は人当たりがよく、とても気が利く男性だった。車を走らせながら、喉は渇いていないかとか、車のなかの温度はどうか、などとふたりのことを気にかけてくれる。
初対面の人間となかなか打ち解けない小坂も、清水のことが気に入ったらしく、いつになく口数が多かった。
(つづく)
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