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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.33

【第193回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第193回】柚月裕子『誓いの証言』

 佐方はその申し出を断った。関係者から話を聞くだけだから、自分ひとりで事足りる。なにより、一緒に行くとなると二人分の経費がかかる。いつも事務所のやりくりに苦労している小坂にとって、できる限り出費は避けたいことではないのか。
 佐方がそう言うと、小坂は反論してきた。
 自分はいままで、学業の傍らこの事務所のために働いてきた。怠けたり、適当な仕事をしてきたことはない。今回は仕事といままでの労いを兼ねて、同行させても罰は当たらないと思う。それに、出費と言っても贅沢をしなければ、そんなに多くはかからない。事務所の備品や来客用の茶菓子などをいまより安価なものにすれば、今年中にカバーできる、と訴える。
 小坂は頑固だ。こうなったら、なにがなんでも自分の言い分を通す。言い争うだけ時間の無駄だ。佐方は二日後の飛行機の手配を頼み、口を閉じた。
 そして、ふたりは今朝、羽田から飛行機に乗り、香川の高松空港へ着いた。
 到着ロビーを出ると小坂はすぐに、空港内にある讃岐うどんの店に向かった。
 佐方はそんなに空腹ではなかったし、店が混んでいて清水との待ち合わせに遅れては申し訳ない。食べるのはあとにしたほうがいいのではないか、と小坂に言ったが、小坂は頑として譲らなかった。
 店の前に行き混んでいないことを確かめて、注文すればすぐに頼んだものが出てくるし、コース料理でもあるまいし、食べるのにそう時間はかからない。待ち合わせの時間に間に合うからいま食べたい、と言い張る。結局、いつものように小坂のペースに巻き込まれ、さほど腹が減っていないのに、うどんを食べることになったのだった。
 佐方はうどんを食べ終わると、腕時計に目をやった。九時四十五分。清水との待ち合わせは十時だった。

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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