【第197回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第197回】柚月裕子『誓いの証言』
親とか子供とか、そんな話になると決まって晶のことを思い出す。
原じいが亡くなってから、十七年が経つ。当時、十歳だった晶は二十七歳になっている。大橋にとってあの出来事は、一生忘れてはならない、しかし、忘れたいことだった。あれからどんどん時間が経っているのに、恵の成長を実感すると、かつてより晶の姿が鮮明に蘇ってくる。
思いにふけっていると、再び恵がやってきた。
「お父さん、お客さんが待ってるよ」
大きな声で言われ、大橋は我に返った。
「いま行くよ」
「早くしてよね」
恵が音を立てて戸を閉めていく。
「まったく、もう少し優しく言えないもんかな」
組合の理事も務めているベテランの石職人が、娘には敵わない。それが可笑しいらしく、アルバイトは声を殺して笑っていた。
大橋はいたたまれず、急いで工場をあとにした。
庭の敷石を踏み、同じ敷地にある自宅へ向かう。玄関を開けると、
中へ入り、玄関の横にある茶の間に入ると、入り口の襖を背にして三人の来客が座卓に向かって座っていた。ちょうど、恵が三人に茶を出しているところだった。
(つづく)
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