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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.29

【第189回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第189回】柚月裕子『誓いの証言』

 児玉家は、いまでこそ運送業や文化推進事業などいくつかの分野を手掛けているが、もとは蕃永石の石を切り出す丁場の管理がはじまりだった。蕃永石に携わる職人を取りまとめ、代々、児玉家を継ぐ者が、蕃永石事業協同組合の組合長を務めていた。
 自分が勤めていた平尾弁護士事務所は、蕃永石事業協同組合の顧問弁護士を請け負っていた、と久保は言った。
 それが、今回のユウカの事件とどのような関係があるのか。
 そう訊ねると、久保は再び口を閉ざした。よほど言いたくないなにかがあるのだろう。佐方は粘り強く、久保が口を開くのを待った。やがて久保は、ぽつりぽつりと話し出した。
 久保が長い時間をかけて語った話の内容は、当時、新しく組合長になった児玉勝也と原が、今後の蕃永石について意見がわかれ、原が丁場を退く形で職人を続けるはずだったが、原は組合を辞めなければならなくなった。その裏工作に久保が手を貸していた、というものだった。
 話し終えた久保は、そのときは自分がなにをしているかわからなかった、と佐方に訴えた。当時、弁護士事務所の代表だった平尾雄二に言われるまま動いていた。しかし、やがて自分がしていることが、いかに汚いことなのかがわかった。
 原が職人を続けられなくなったのは、自分のせいだ。言われるがままに動いたとしても、自分も策略に加担したことに変わりはない。本来、人を救うための仕事をするはずの弁護士が、人を貶めてしまった。その罪悪感に耐え切れず、久保は香川を去ったという。
 それで、原滋はそのあとどうなった。どうして晶は安藤文子の養女になったのか。
 佐方が訊ねると久保は、わからない、とつぶやいた。

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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