【第188回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第188回】柚月裕子『誓いの証言』
ふたりは、香川の高松に来ていた。
佐方が久保から、原滋に関する話を聞いてから三日が経った。
新宿署の接見室で、ユウカの安藤晶という名前は養女になってからのもので、もとは原晶という名前だった、そう久保に告げると、久保は激しく動揺し、原滋、という名前を口にした。
それは誰だ、と訊ねたが、久保はなかなか話そうとしない。しかし佐方が、それを話さなければ無実を証明できない、と説得すると、久保はやっと重い口を開いた。
久保の話によると、原滋は蕃永石の丁場で働いていた職人だった、という。
蕃永石のことは、佐方も知っていた。美しく貴重で高価な石材だ。原滋は、蕃永石の採掘場で働いていた腕のいい職人で、晶は原滋の孫だという。
その職人の孫に、どうして久保が恨まれるのか。
そう訊くと久保は、自分もよくわからないが、きっとあの件だと思う、と言いながら、ある企業の名前を口にした。
児玉興業グループ、そう久保は言った。
その名前も、佐方はどこかで目にしていた。インターネットの広告なのか、新聞か雑誌の記事だったのかはわからない。しかし、その企業名の字面は見た覚えがあった。そのことから、地元だけでなく、中央にまで事業を広げている企業だということがわかる。
(つづく)
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