【第176回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第176回】柚月裕子『誓いの証言』
その雨の日から一週間後、原じいの葬儀が営まれた。葬儀といっても形ばかりのもので、原家の菩提寺で、和尚が読経をするというだけのものだった。参列者は数えるほどで、身内と町内会で付き合いがあった者だけだった。
原じいは丁場で倒れているところを発見されたあと、救急車で病院に搬送されたが、すでに死亡していた。
死因は、岩場から転落したことによる外傷性ショックだった。大橋はそのことを、翌日の新聞で知った。警察は、本人の体内から多量のアルコールが検出されたことと、転落した場所にほかの人間がいた形跡がないことから事件性はないとし、被害者が酩酊状態で丁場へ行き、足を滑らせて転落した事故死と判断した。
原じいの死はすぐに町中に広がり、誰もが急な訃報に驚いた。当然、丁場の関係者にも伝わった。しかし、誰も悲しみを顔に出したり、口にしたりしなかった。
みな、原じいに負い目があったのだ。
蕃永石の組合から外され、石の調達もできなくなった原じいに残されたのは、会社を立ち上げるために背負った借金だった。
組合から外された当初は、児玉と繋がりがない蕃永石の卸し業者を探していたが、このあたりで児玉を抜きにして蕃永石事業を営んでいるところはない。結局、原じいは蕃永石の仕事ができなくなってしまった。
それからの原じいは、酒に逃げるようになった。逃げるというよりは、飲まなければやっていられない、と言ったほうが正しいだろう。町内会の人が用事で家を訪ねると、昼から酒を飲み、茶の間で酔いつぶれていたという。見かねて
(つづく)
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