【第174回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第174回】柚月裕子『誓いの証言』
「おそらく、あそこから落ちたんだろう」
戸井と職人が、徳田の視線を追う。大橋たちの頭上には、大きな岩がせり出していた。岩の先端から、雨水が滝のように流れ落ちている。
徳田が、雨に目を
「こんな足場が悪いときに、あんなところに登るなんて自殺行為だ」
徳田は、原じいのそばに座り込んでいる晶に声をかけた。
「ここは危ない。安全な場所に行こう」
晶は返事をしない。原じいのそばに座り、俯いているままだ。
徳田は、自分の足元を見た。
「この雨で地面が緩んでいる。土砂が崩れるかもしれない。もう、一一〇番はした。まもなく警察と救急車が来る」
声が聞こえているのかいないのか。やはり晶はぴくりとも動かない。
見かねた戸井は、晶の肩に手を置いた。
「俺たちがここにいても、どうにもならない。さあ」
晶は身体を
「なにするんだ。危ないだろう!」
職人が、転びそうになった戸井を支えながら、晶に向かって叫ぶ。
晶はゆっくりと後ろを振り返り、職人を
「な、なんだよ」
強い怒りを含んだ目に、職人が
晶は地面から勢いよく立ち上がると、職人に掴みかかった。
「おじいちゃんが死んだのは、お前たちのせいだ!」
(つづく)
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