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連載

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.13

【第173回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第173回】柚月裕子『誓いの証言』

「は、原じい――」
 声をかけても、原じいは返事をしない。まぶたと口は半開きの状態のまま固まったように動かず、目の焦点は合っていなかった。
 大橋は腰が抜けたように、その場に座り込んだ。
 ――死んでいる。
 どうしていいかわからず、その場に座ったまま原じいを見つめていると、岩場の下のほうから、人がやってくる気配がした。
 振り返ると、ひとりの少女と、大人の男が三人いるのが見えた。男たちは上下に分かれた雨合羽を着ているが、少女は洋服のままでずぶ濡れだった。もう一人の職人はいない。おそらく門のところで警察か救急車が来たときに誘導するため待っているのだろう。
 少女は晶だった。ほかは徳田と戸井、顔なじみの職人だ。
「あそこだ、ほら!」
 戸井が、こちらを指さして叫んだ。
 晶が前を歩いている戸井を押しのけて、大橋のほうへ走り出した。
「走るな、あぶない!」
 徳田が叫ぶ。しかし、晶は言うことをきかない。石につまずき転んでも、すぐに立ち上がりこちらに向かって駆けてくる。
 晶は大橋のそばへやってくると、地面にひざまずき、倒れている男の顔を覗き込んだ。晶の顔が、激しい痛みをこらえているようなそれになる。やがて、震える声でつぶやいた。
「おじいちゃん――」
 晶に追いついた徳田たちは、倒れている原じいを見て眉間に深い皺を寄せた。
 徳田がみんなに向かって言う。
「なあ、俺が言ったとおりだろう」
 戸井が頷く。
「ああ、そうだな」
 職人が、身震いをした。
「どうして、こんなことに――」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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