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連載

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.10

【第170回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第170回】柚月裕子『誓いの証言』

 戸井の話では、いまから一時間ほど前に、晶が家にやってきたという。戸井の家は原じいの家の近所だった。
「アキちゃんが家にやってきて、おじいちゃんがいないって言うんだ。どこにいったか知らないのかって訊いたら、知らないって。急に用事を思い出して出掛けたんじゃないかって言っても、車があるから違うって言うんだ」
 地方では、電車やバスといった公共の交通手段が限られている。それは蕃永町も同じで、住人の大半は出掛けるときに、自家用車を使っている。原じいもそうだった。すぐ近くのスーパーにいくときも、自分の車で出かけていた。
「たしかに、車を置いて出掛けるなんて変だとは思ったんだよ。でも、よく話を聞いたら、どうやら昼から酒を飲んでいたみたいなんだ。だから、きっと酔い覚ましのためにその辺を散歩してるのかなって思ったんだ。だから、心配ないよ、ってアキちゃんを宥めたけど、アキちゃんは引き下がらなくてさ。そのうち雨も降ってきたし、どこか側溝にでも落ちて怪我をしていたら大変だ、と思って、アキちゃんを無理やり家に帰して捜しに出たんだ」
 戸井が原じいの名前を呼びながら探していると、小学校の教師をしている馬場ばばひさしが車で通りかかった。馬場は車を一度停めて、戸井になにをしているのか訊ねた。戸井が事情を伝えると、いましがた丁場へ続く道を原じいが歩いていくのを見た、と言う。
「そのとき、もう丁場は閉まっている時間で、道の入口にある門には鍵がかかっていた。でも、みんなも知っているように、門は車両が通れないようにしているだけで、人は門の脇の隙間から入れるだろう。それで、原じいが丁場へ向かったってわかったんだ」
 丁場も組合も辞めた原じいが、いまさら丁場になんの用事があるのか。
 雨脚がさらに強くなってきた。大粒の雨の雫が地面で激しく跳ねる。原じいが丁場に行った理由はあとだ。いまは、原じいの身の安全を確かめるのが先だ。

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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