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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.11

【第171回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第171回】柚月裕子『誓いの証言』

「それで――原じいは見つかったのか」
 大橋は戸井に訊ねた。それまで淀みなく話していた戸井の口が、ぴたりと止まる。四人は、誰が言うか、というように互いに顔を見合わせた。
 嫌な予感がして、大橋は隣にいる戸井の肩を乱暴に掴んだ。
「おい、早く言えよ。原じいはどこだ。見つかったのか」
 戸井はなにも言わない。黙ってうつむく。
 雨脚がさらに強くなってきた。激しい雨音で声がかき消されないよう、大きな声で四人に訊いた。
「おい、答えろよ。原じいは見つかったのか。原じいは――」
「原じいは、丁場にいる!」
 大橋より大きな声で、徳田が答える。
 その言葉を聞いた大橋は安堵した。しかし、すぐに不安が胸をよぎった。
 原じいの居場所がわかって安心はした。しかし、いる、とはどういうことか。この大雨でいつもより岩が滑りやすくなっている。落石の危険もある。早く連れ出さなければ危ない。
 大橋はみんなを急かした。
「いるって、どういうことですか。早く丁場から連れ出しましょう。なにかあったら大変だ」
 大橋の言葉に、誰も動かない。黙って立ち尽くしている。四人の沈黙に、大橋の背中を震えが駆けあがった。
「まさか――」
 その先を遮るように、徳田がぽつりと言う。
「さっき、一一〇番した」
 心臓が激しく波打った。
「どうしたんです。怪我でもしたんですか」
 徳田は首を横に振った。
「いや」
 それ以上、なにも言わない。

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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