【第169回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第169回】柚月裕子『誓いの証言』
美術館がある高松市から、自宅がある蕃永町まで、車でおよそ三十分ほどかかる。蕃永町に近づいたころには、気象庁が発表していた大雨注意報は警報に変わっていた。次第にひどくなる雨は夜半過ぎまで続き、小康状態になるのは明日の昼頃との予報だった。
蕃永町に入り、家に続く道路を走っていると、道路の脇に複数台の車が停まっているのが見えた。丁場へ続く道の、入口のところだ。車のそばに、何人かの人影が見える。傘をさして、輪を作っていた。この雨のなか、なにをしているのか。
大橋は人影の横に車を停めて、窓を開けた。
「そこでなにしてるんだ」
人影が振り返った。
蕃永石の組合員たちだった。ひとりは理事の徳田、もうひとりは監事の
大橋は瞬時に、なにかあったのだ、と悟った。
車のエンジンを切り、運転席から降りる。戸井が自分の傘を、半分、大橋に差した。
「どうした。いったい、なにがあった」
四人は顔を見合わせた。どう答えていいか迷っているようだった。
真っ黒な空に光が走った。少し遅れて、ゴロゴロという音がする。雨だけではなく、雷まで鳴りはじめた。
黙っていてもはじまらない、そう思ったのか、徳田が意を決したように口を開いた。
「原じいがいなくなったんだ」
「いなくなった?」
すぐには事情が把握できず、聞き返す。徳田が、お前が話せ、というように戸井を見る。戸井は唾をごくりと飲むような仕草のあと、早口で説明した。
(つづく)
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