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レビュー

【解説】SFの要素をガッツリ入れたことで、ホラーの要素が強固になっている――『対怪異アンドロイド開発研究室』饗庭淵【文庫巻末解説:細谷正充】

饗庭淵『対怪異アンドロイド開発研究室』(角川文庫)の刊行を記念して、巻末に収録された「解説」を特別公開!



饗庭淵『対怪異アンドロイド開発研究室』文庫巻末解説

解説
ほそ まさみつ(書評家)

 タイトルは大切。本当に大切。実例として挙げたいのが、あえふちの『対怪異アンドロイド開発研究室』だ。もちろん単行本時の魅力的なカバーイラストや、帯に書かれていた“第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉特別賞受賞作”という言葉にもこころかれた。だが、もっとも興味をき立ててくれたのはタイトルだ。対怪異アンドロイドって何なの? ようかいとアンドロイドがバトルするの? ちょっと想像がつかず、だからこそ読む気増大。すぐさま本を手に取って、ページをめくったら、あまりに面白くて一気読みだ。これはすごい作品だと喜び、一般社団法人文人墨客が主催し、私が選者を務めている文学賞・細谷正充賞の、第七回の受賞作の一冊に決定したのである(細谷正充賞は一回に五冊を選んでいる)。
 作品の内容に触れる前に、作者の紹介をしておこう。饗庭淵は、一九八八年生まれ。福岡県在住。フリーゲーム製作者・イラストレーター。幾つかのオリジナルゲームを発表している。その中の『黒先輩と黒屋敷の闇に迷わない』が話題となり、自らノベライズを手掛けた。あらためて記すがその後本作で、小説投稿サイト「カクヨム」が二〇二二年から翌二三年にかけて実施した、第8回カクヨムWeb小説コンテストで〈ホラー部門〉特別賞を受賞。二〇二三年十二月にKADOKAWAから単行本が刊行された。
 ただし本書の内容はホラーというより、ホラーSFと呼びたくなる。そのSFの部分を担っているのが、きんじよう大学で「対怪異アンドロイド開発研究室」を率いるしらかわあり教授が作った、自律はんようAIを有するアンドロイドの“アリサ”だ。怪異の調査をするアリサは機械ゆえに、たたりも呪いも受けず、恐怖心も持っていない。このアリサの設定と描写が、実にみつかつリアルであり、読んでいて何度も感心した。
 そんなアリサが「異界」と化した、さまざまな場所で怪異とたいする。面白いのは、アリサの能力をもってしても、怪異に立ち向かうのが困難なこと。それにより、理解できない怪異の怖さが際立つのである。SFの要素をガッツリ入れたことで、ホラーの要素が強固になっているのだ。
 ちなみに作者は、一般社団法人文人墨客が発行している「文人墨客」第十二号に掲載された「細谷正充賞受賞に寄せて」で、本作のジャンルは「ホラー」であり「SF」であるといいながら、「SFホラー」とは少し違うと述べている。そして、「人間であれば恐怖ですくんで先に進めなくなるような心霊スポットでも、恐怖心をそもそも持たないアンドロイドであればさくさく調査できるのではないか?」という発想を得て、似たような先行作品がほとんどないことを確認。「メインとして題材とした作品は本作が初めてでしょう」という自負心をのぞかせながら、その理由として、

「それもそのはず、ホラーというジャンルは『主人公が怖がっているのを見て怖がる』という側面があります。主人公が『なにかいるかもしれない……』とおびえ、恐る恐る振り向く。襲ってくる怪物から逃げるため、震えながら物陰に息を潜めて隠れる。だから読者も怖い。怪物に平然と立ち向かうタフガイが主人公だと、それこそニコラス・ケイジの『ウィリーズ・ワンダーランド』のようにジャンルが変わってしまいます」

 といっているのだ。ホラーの本質的な楽しみを熟知しているからこそ、それに対抗する存在として恐怖心という感情のないアンドロイドを配置する。結果として、ホラーとSFという、ふたつのジャンルがせめぎ合う、きわめて独創的な作品になったのである。
 さらにストーリー展開も見逃せない。物語は連作のスタイルで進行。その合間に「対怪異アンドロイド開発研究室」という、白川教授やその教え子たちのパートが挿入される。冒頭の「不明廃村」は、衛星写真には写るが、行政機関に記録がなく、情報も出回っていない廃村の調査に、アリサが赴く。そこで出会ったくらひこひろしというチャラ男と、旅館に入ったアリサは怪異と遭遇する。
 という話の後に、研究室のパートになる。興味本位で研究室にやってきた三年生のにいじまゆかりの視点で、白川有栖や研究室に所属するあおだいすけ、そしてアリサが紹介されていく。なおアリサは、廃村の出来事を映像で記録している。それをVRで見たゆかりは、有栖から意外な事実を知らされるのだ。研究室のパートにより、さまざまなことが明らかになるが、一方で謎も恐怖も深まる。これにより読者のリーダビリティが高まっていくのだ。
 続く「回葬列車」は、都市伝説になっている回送電車に気がついたら乗っていたかいという女性が、調査中のアリサに遭遇。すぐに危険な行為を実行するアリサに振り回される。そして第三話「共死蠱惑」は、いままでの調査の件で、白川教授が仕事を依頼していた私立探偵のたにざわこういちが、怪異の当事者となる。ここから怪異が、どんどん登場人物に迫ってくるのだ。前二話までは対岸の騒動を眺めて面白がっていたら、その騒動が自分の直ぐ脇まで来ていることに気づく。そんな恐ろしさが感じられた。
 さらに第四話「餐街雑居」では、霊能者のおけ狭間はざまのぶながが登場。アリサのモデルになった女性を始め、いろいろな事情に通じているようだ。さらに怪異が身近に迫る第五話「異界案内」と第六話「非訪問者」を経て、ラストの「幽冥寒村」に突入。研究室のパートで、白川有栖がアリサを造った理由も明らかになり、ド派手なクライマックスを迎えることになる。ストーリーが進むにつれて、意外な人物が再登場するなど、各話がつながっていき、恐怖を盛り上げるのである。
 また、研究室の面々も魅力的だ。マッドサイエンティストとしか思えない白川有栖は、重い過去を引きずっている。いつの間にか研究室に居ついた新島ゆかりは、怪異と遭遇しやすい体質(?)であることが判明。しかし本人は、まったく気にしていない。そんな彼女の危なっかしさは、「非訪問者」で表現されている。青木大輔は常識人枠。こういう人も必要だ。
 そして、自律汎用AIを有するアンドロイドのアリサ。黒髪セミロングで端整な顔立ちをしているが、体重は百三十キロ。白川教授の命令優先であり、怪異を調べるために、あえて危険なことをする。人間との会話はスムーズなようで、根本の思考が違うのでみ合わない。アリサの言動が笑いを呼び、怪異の恐ろしさを中和する。なんともいえない独特のキャラクターとして、物語の中にきつりつしているのだ。
 物語は終わったが、解決していない事態や謎も少なくない。当然、続きがあるだろうと思っていたら、二〇二五年三月に『対怪異アンドロイド開発研究室2.0』が刊行された。こちらではアリサが学校の七不思議に挑むのだが、内容は読者の予想をはるかに上回る。うわっ、そうきたのかと驚いた。しかも、まだまだ先がありそうだ。だからシリーズ第三弾を、今から待ち望んでいるのである。

作品紹介



書 名: 対怪異アンドロイド開発研究室
著 者:饗庭淵
発売日:2025年12月25日

呪いも祟りも効きません。超高性能アンドロイドですので。
白川研究室が開発した超高性能アンドロイド・アリサ。
彼女は呪いや祟りを受け付けず、恐怖心すら持たない――。

新入り研究員・新島ゆかりは、アリサ、先輩の青木大輔、
白川教授と共に様々な怪異を調査することに。
消失した廃村、異界行きの回送列車、顔を見ると死ぬ女。
アリサの怪異検出AIは異常現象を次々と記録するが、中には“例外”も存在し……。

調査の果てに彼らを待ち受ける災厄とは。
恐怖が科学を侵蝕する、前代未聞の新感覚ホラー・エンタテインメント。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322508000324/
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