恐怖心を持たないAIが予測不能な「怪異」に挑む!
『対怪異アンドロイド開発研究室』レビュー
第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉の受賞作が2冊同時刊行!
大注目ジャンルで生まれた全く新しいホラー作品を書評とともにご紹介します。
主役は感情のないアンドロイド。逆転の発想に唸る、カクヨム発のニューウェイブホラー
書評:朝宮運河(怪奇幻想ライター・書評家)
第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉特別賞を受賞した本作は、これまでの受賞作の中でもひときわ尖った作風といえるだろう。なにしろ主要登場人物の一人が、対怪異用に開発されたアンドロイドなのだから。登場人物のリアクションによって、読み手に恐怖や不安を抱かせるのが常道のホラーにおいて、感情を持たない自律汎用AIが搭載されたロボットをメインキャラクターに据えるのは、あまりにも挑戦的だ。
怪異に出くわしてもアリサの感情が揺れることはないし、データ収集のためにあえて挑発的な行為を取ることもある。人間のように怯えて引き返したり、勘違いしたりという展開もないため、怪異調査は極めてスムーズに展開する。なるほどこの設定は発明だ。そんな設定でホラーが成立するのかといえば、これが見事にホラーとして成り立っているから面白い。
その理由のひとつは、研究室の人々の感情の動き、とりわけ恐怖心が丁寧に描かれていること。大学生・
怪異との絶妙な距離感も大きな特徴。頻発する不可解な現象はやがて、なぜ人類は怪異に遭遇するのか、この世界はそもそも何かがおかしいのではないか、という問いへと繫がっていく。それは有能なアリサのAIでも解き明かすことができない、宇宙の究極的な謎だ。人間の認識を超えたところに広がる闇の領域。ラヴクラフトのクトゥルー神話作品を思わせるようなビジョンが、物語を恐怖と絶望で塗りつぶしていく。
変化球のようで、ホラーのストライクゾーンを見事に貫いた魔球的長編。新鋭を相次いで輩出するカクヨムから、また一人注目すべきホラー作家が誕生した。
作品紹介
対怪異アンドロイド開発研究室
著 者:饗庭 淵
発売日:2023年12月22日
「おばけは怖くありません。機械ですから」
彼女にはいくつかの優れた機能がある。話題が無限分岐し堆積していく雑談でも自然言語による受け答えができる。ZMPを見極めながら階段や斜面の昇り降りができる。補給なしに六時間以上の連続稼働ができる。ドアノブを掴んで回すことができる。――おばけが見える。
白川研究室は「出る」と言われる場所や噂を調査する対怪異アンドロイド・アリサを開発した。機械の彼女は、呪いも祟りも受け付けない。ゆえに、恐怖心もない――。深夜に山奥の廃村を調査したアリサは、搭載された機能を駆使して、さまざまな異常を検知する。白川教授の研究テーマに興味を惹かれ、初めて研究室を訪問した新島ゆかりが、アリサが持ち帰ったデータを見ると……。
恐怖を感知しない美麗アンドロイドVS.予測不能な「怪異」。第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉特別賞を受賞した新感覚ホラー・エンターテインメント!
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