子どものころは何かと親から怒られた。大人になってわかったのは、親の怒りの理由は大きく二つに分けられる。ひとつは自分や誰かを危険にさらした場合。そしてもうひとつは親の期待を大きく裏切った場合。
ある日、「石橋ユウ」が虐待されて亡くなった。物語には三人の石橋ユウとその母が登場する。誰一人として虐待しそうにない母だが、思いがけない子どもの言動に衝撃を受けて気付けば手が出てしまった。これは躾なのか、虐待なのか?
虐待のニュースに触れる度「世の中にはひどい親がいるのだ」と思うのに、読みながら「ここに登場する母たちはわたしの中にもいる」と痛感した。愛という支配下に子どもを置いていることに無自覚なのは、おそらく罪である。
親の愛は大きいほどに、それは子どもへのプレッシャーにもなり得る。本書は三人の母の視点で描かれるが、もし子から見た母を映し出したなら、おそらく読後感はまるで変わるだろう。
「ダ・ヴィンチ 2020年3月号」より
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