高校の放送部がこんなに熱いとは。
『ブロードキャスト』を読みながら感じたのはまずその意外性だ。作中で主人公たち放送部員は、放送局のJBKが主催する全国高校放送コンテストに参加する。地方から全国大会が開かれる東京へと勝ち上がろうとするのである。モデルになったと思われるNHK杯全国高校放送コンテストは今年で六十六回を迎え、毎年二〇〇〇校を超える高校がエントリーしているという。
しかし、この物語の主人公、高校一年の圭祐もまた放送部の活動を知らなかった一人である。中学で陸上部だった圭祐は、高校でも陸上を続けようと考えていたが、志望していた高校に入学したにもかかわらず、怪我でその夢が叶わなくなっていた。そんな状況で、正也という同級生に誘われてなんとなく放送部の門を叩くのである。そうして私たちは圭祐とともに、放送部という未知の世界に足を踏み入れることになる。
正也は脚本家になりたいという明確な夢を持っていた。陸上部に入るというすぐ近くの未来しか頭になかった圭祐にはそれだけでもまぶしく見える。正也は圭祐の声が放送に向いていると指摘し、放送部に勧誘する。自分の知らなかった面に気づかされたことで、圭祐はようやく前向きになった。
しかし、放送部はちょっとした危機にあった。三年生はやる気がいま一つ。部長はリーダーシップを発揮できていない。二年生はドキュメント部門の作品制作に忙しく無愛想。圭祐と正也はさっそく三年生のドラマ撮影に俳優としてかり出されるが、脚本のできはいま一つ。しかし二人は諦めることなく、同級生の咲楽を放送部に勧誘し、三年生をチクチクと刺激しながら作品完成までこぎ着ける。そのうえ、ラジオドラマ部門への応募作品がないことを知った正也が脚本を書くと手を挙げ、圭祐と咲楽も協力することに。そして一カ月という短期間での完成を目指し、制作を始めるのだ。
部員たちの個性はさまざま。創作という優劣が曖昧な領域で、本気でいいものをつくろうとすればぶつかり合いも起きる。人生経験の少ない十代の率直な物言いは相手の心を傷つけるナイフだ。だが、ほんのちょっとした出来事で成長し、変わっていける柔軟さを持ち合わせているのが十代の特権でもあるだろう。彼らの成長を見守るのは読者にとって大きな喜びだ。
『ブロードキャスト』は湊かなえにとって作家デビュー十周年の記念すべき作品であり、真っ正面から青春を描き、新境地を切り開いた意欲作である。しかも物語のなかにさりげなく謎とその答えが用意されていたり、意外な事実が明らかになるといった仕掛けも忘れてはいない。エンターテインメントとしての面白さを追求するという姿勢はそのままに、青春時代のまっただ中にいる若者たちの・本気・を描いた愛すべき作品なのである。続編となる「ドキュメント」で、彼らがどんな活躍を見せてくれるのか、いまから楽しみだ。
▼書籍の詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321612000239/
★試し読み
・【第九回山田風太郎賞 候補作試し読み】湊かなえ『ブロードキャスト』
・【新連載試し読み】青春小説『ブロードキャスト』、 待望の続編がスタート! 湊かなえ「ドキュメント」