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特集

ぶんけい×湊かなえ『ブロードキャスト』の舞台

撮影:中岡 隆造  構成:タカザワ ケンジ 

新章となる「ドキュメント」連載スタートを記念して、
インフルエンサーぶんけいさんと湊さんの対談が実現。お二人の意外な共通点、
そして『ブロードキャスト』の魅力についてたっぷり語っていただきました。

『告白』に受けた衝撃


――今日の対談を意外な組み合わせだと思われる読者も多いと思います。まずはご関係からうかがってもいいですか。


湊:ぶんけいさんとは私が住んでいる淡路島つながりなんです。家の近くにある兵庫県立洲本高校のご出身で、在学中は放送部。Nコン(NHK杯全国高校放送コンテスト)の「テレビドラマ部門」で全国優勝されているんですよね。


ぶんけい:実は湊さんの旦那さんがうちの高校の先生で、職員室が放送部と隣同士なんですよ。在学中には廊下でお話しさせていただいたりしてました。


湊:当時、旦那から、洲本高校の放送部がNコンで優勝したと聞きました。全国大会に出るだけでも大変なのに、優勝なんてすごいですよね。


ぶんけい:ありがとうございます。湊さんの作品は読者としてずっと読んでいたんですが、初めてちゃんとお会いしたのは今年、Nコンの審査会場でした。湊さんがゲスト審査員で、僕は公式サポーターとしてお手伝いさせていただきました。お会いしようと思えばできるくらい近い距離には居たんですが、会うのはまだまだ早い、と思っていました。時が来たら、と願掛けをするような気持ちでいたんです。ですから今日は対談させていただいてとても嬉しいです。


湊:こちらこそありがとうございます。ぶんけいさんが放送部に入ろうと思ったのはどうしてなんですか?


ぶんけい:きっかけはカメラや録音の機材に興味があったからなんです。『ブロードキャスト』の中にも書かれていましたが、高校の放送部は本格的で、高そうなカメラや録音機材があるんですよね。最初はカメラや録音機材を触るだけで面白かったんですけど、触るためには自分で何かをつくらなくちゃいけない。それでドラマをつくることになったんです。作品をつくりたいというよりは、カメラを触りたい、映像をつくりたいと思って脚本を書きました。その頃にちょうど映画の『告白』が公開されたんです。



湊:二〇一〇年ですね。


ぶんけい:ちょうどNコンの時期だったんですが、映画館で観て衝撃を受けました。小説と映像でこんなに表現方法が違うんだって。公開中に三回観に行きました。その時に気づいたのが、僕はカメラや機材が好きなんじゃなくて物語が好きなんだということ。その時はNコンに出す作品はもうつくってしまっていて、見事初戦敗退だったんですけど(笑)。自分でハードル上げるタイプだったみたいで、二年生の時には何もつくりませんでした。何をつくっても面白くないと感じてしまって。当時は、それは『告白』のせいだと思っていました。いま思うと恥ずかしい話です。


湊:打倒・中島哲也(監督)だったのか。それはハードルが高いですね(笑)。


ぶんけい:もちろん原作小説も合わせてなんですけど、『告白』が面白すぎて(笑)。三年生の時にようやく、もう一度つくってみようと思えたんです。


湊:Nコンを目標につくるってことですよね。


ぶんけい:Nコンって、作品に高校生らしさが求められるんですけど、僕が考えたのはぜんぜん高校生らしくなかったんですよ。「disPair」という作品で、どっちかというと、今のNコンをぶっ壊す! くらいのテンションでつくったんです(笑)。『ブロードキャスト』の中でもJBKという放送局のコンテストが出てきます。応募作に似たような恋愛ものが続いたり、部活ものが多かったりしますよね。Nコンもそうで、高校生たちが演じないといけないので似たものが多いし、そういう作品が「高校生らしい」と評価される。だから生徒たちも似たような作品しかつくらなくなる。それがいやで、ぜんぜん違うものをつくったろ、と思ってつくったら、新しいと評価されました。もちろん賛否はあってNコンの優勝でいいのか? という意見も審査員の間であったそうですが、最終的に会場での盛り上がりを評価して頂けたみたいです。でも、優勝したことよりも、こういう作品じゃないとNコンで優勝できない、という既成概念を壊せたことが嬉しかったですね。


湊:一石を投じたんですね。あの作品から、テレビドラマ部門の応募作が変わったとNコンのスタッフの方がおっしゃっていました。「disPair」は高校の化学部が舞台で、サスペンス的な要素とユーモアがある作品。毒がありますよね。放送部の同級生から「これはだめなんちゃう?」とか反対意見は出なかったんですか。


ぶんけい:両極端でしたね。すごくいいじゃん、面白いね、一緒につくろうって言ってくれる人と、自校の中で出せる枠が決まっているので、これを出すべきかどうかという慎重派もいました。最終的に、反対している人たちを説得してやりましたけど。校内でも、県内でも、全国でも賛否両論ありましたね。

高校生目線のラジオドラマ


――放送部員だったぶんけいさんにとって湊さんの『ブロードキャスト』はどうでした?


ぶんけい:すごく面白かったです。でも、自分のことが書かれているようでちょっと恥ずかしくなりました(笑)。部員同士の何気ない会話とか、議論の脱線の仕方とか、それぞれが持っている趣味嗜好とか。放送部って、湊かなえさんからはこう見えるのか、と。自分がいた放送部を思い出して、二章のあたりですでに泣きそうになりました。泣くような場面ではないのに。いろんな生徒がいる感じがすごくリアルに感じられたんですが、高校の放送部に取材をされたんですか。


湊:二〇一六年の全国大会の準決勝を見に行ったんですが、最初はドキュメント部門に参加する子たちを書こうと思っていたので、ドキュメント部門を見ました。作品を見ながら自分でも採点してみたんですが、翌日、審査結果が出たのを見て、うわあ、びっくり、みたいな(笑)。



ぶんけい:結果が違ってました?


湊:かなり違いましたね(笑)


ぶんけい:『ブロードキャスト』の中でも、主人公たちが審査結果に納得できないくだりがありましたよね。あれは湊さんがお感じになったことなのかな? と思ったんです。僕もそうだったので。でも、小説の中でお書きになったのはドキュメント部門ではなく、ラジオドラマ部門ですよね。


湊:もともと、私自身がドラマの脚本を書くのが好きで、脚本のコンクールに応募したり、ラジオドラマの賞をもらったりもしていたんです。ラジオドラマ制作の現場にも行ったことがあるので、ラジオドラマ部門だけで一冊書けるんじゃないかなと思ったんですよね。


ぶんけい:ラジオドラマ部門の候補作が十作品くらい出てきますよね。あれは書いていて楽しかったですか。


湊:楽しかったですね。あそこを書いている時がいちばんノリノリでした。一人コンテスト状態だったから(笑)。


ぶんけい:読んでいてそんな気がしました(笑)。


湊:一人コンテスト、一人選考、そして、審査員の悪口も少しだけ(笑)。


ぶんけい:作品はどうやって考えていったんですか。だめな作品から考えたのか、優秀作から考えたのか。良いのが何作、だめなのが何作と枠を決めたりとかしたんですか。


湊:いろんなパターンのラジオドラマがあるなと思って、それを一つずつ考えていきました。恋愛ものとか、医療ものとか、宇宙ものとか。自分が高校の放送部にいて、ラジオドラマをつくることになって、みんなにこんなのどうだろうってプレゼンするみたいに。


ぶんけい:じゃあ、ぜんぶいいものにしようと。


湊:そうですね。だって、その高校生たちは、自分たちができる範囲でいいものを書こうと思っているはずだから。宇宙を舞台にできるのがラジオドラマならではだよね、とか会話してつくっている感じです。でも、高校生なので、どこか足りないところ、ツメが甘い部分が出てくる。そこは審査員気分で厳しく。


ぶんけい:湊さんが考えたらぜんぶ面白くなっちゃいそうだから、わざとだめな作品を考えるのが難しかったんじゃないかって思ったんです。


湊:自分が、まだプロになる前の気持ちを思い出しながら、身近にある材料で、こういう作品をつくったよね、という感じですね。その時の気持ちに自分を持っていきました。大人になるとそのアイディアの足りないところも見えてくるけど、それに気づかない状態まで自分をリセットして、高校生が見ている世界を見ようと思いました。そういう意味では自分の原点を振り返る作品になりましたね。



「ブロードキャスト2」はドキュメント部門


――最後にぶんけいさんの今後の活動を教えてください。


ぶんけい:現在、「ハクシ」という会社をやっています。映像やアート・ディレクション、企業のキャラクターのプロデュースをしたりしていますが、いろんなジャンルで「商品」ではなく「作品」をつくれる会社にしたいなと思っています。いまは映像が中心ですが、物語が好きなので、小説を書いてみたいし、舞台の脚本も書いてみたいですね。


湊:放送部卒業の方が、部活をやっていた経験を生かしていま活躍されているのって、放送部の子たちの励みになりますよね。部活を何にしようかなと思っている子たちのあこがれになるし。こういう先輩がいるよ、と知ってほしいですね。


ぶんけい:そういう先輩になれるようにがんばります(笑)。湊さんの『ブロードキャスト2』の連載が今月号から始まるんですよね。どんな内容になるんですか。


湊:今度はドキュメント部門を書きます。続編を出すのってあまり考えたことがなかったんですが、最初に書く予定だったドキュメント部門の話を書いてないので、『ブロードキャスト2』は書きたかった。実は全国大会に行く作品はもう決めてるんですよ。


ぶんけい:どんな作品なんだろう。わくわくしてきました(笑)。楽しみにしています。


湊 かなえ

1973年広島県生まれ。2005年第2回BS‐i新人脚本賞で佳作入選。07年第35回創作ラジオドラマ大賞受賞。同年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。08年同作品を収録した『告白』でデビューし、09年本屋大賞を受賞。また14年には、アメリカ「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のミステリーベスト10に、15年には全米図書館協会アレックス賞に選ばれた。12年「望郷、海の星」で第65回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。16年『ユートピア』で第29回山本周五郎賞を受賞。18年『贖罪』がエドガー賞〈ペーパーバック・オリジナル部門〉にノミネートされた。同じく18年『ブロードキャスト』を刊行。

ぶんけい

1994年兵庫県生まれ。株式会社ハクシCEO、クリエイター、インフルエンサー。本名は柿原朋哉。Twitter(https://twitter.com/bunkei_tk)フォロワーは40万人、Instagram(https://www.instagram.com/bunkei.tk/)フォロワーは30万人にのぼる。対談内で話題にのぼった短編映画「disPair Youtube ver.」は右記URLより。https://www.youtube.com/watch?v=GB17AOJ766M

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