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特集

芦名星×須賀しのぶ フクシマにルーツを持つ二人が熱く語る、会津の白百合たち。『荒城に白百合ありて』対談

撮影:小嶋 淑子  取材・文:大内 弓子 

荒城に白百合ありて』の著者で、両親が会津出身の須賀しのぶさんと、福島県出身で『八重の桜』への出演経験もある女優の芦名星さん。福島にルーツを持つお二人が本作の魅力を語り合います。



会津の女性は忍耐強くてカッコイイ


須賀:芦名さんが出演されていた『八重の桜』は放送時に拝見していて、本当によくできたドラマだなと思っていたんです。だから、影響されるといけないと思って、この『荒城に白百合ありて』を書いている間はあえて封印していたんですけど(笑)。今、書き終わった後に安心してもう一度見直し始めたら、やっぱりすごくいいんですよね。私は両親が会津ということもあって、どうしても入り込んでしまうんですが、なかでも、芦名さんが演じられた神保雪(子)と修理しゅりの夫婦が子どもの頃から大好きだったんです。


芦名:そうだったんですか。ありがとうございます。でも私は、実家が郡山こおりやまのほうで、会津とは近いようで遠かったので、『八重の桜』に出演するまで白虎隊のことくらいしか知らなかったんです。だから、会津の歴史の細かい部分を調べてから撮影に臨んで、やりながらわかっていったという感じだったんですけど、やっぱり、演じていて会津の人、福島の人だなっていう感じはしましたね。この『荒城に白百合ありて』に出てくる女性もそうですけど。


須賀:そう感じていただけましたか。ありがとうございます。


芦名:福島の人ってどんな人って聞かれると、「我慢強い」「忍耐強い」っていう言葉が出てくるんですけど、女性はとくに、三歩下がってっていうイメージが強いと思うんですね。うちも、祖父母も両親も、女性が男性を支えていたので、そういうのがこの本に反映されているなと。


須賀:うちの母や親戚もそうでしたけど、みんなあまりしゃべらないというか、なかなか本心を言わないところがあって、我慢強いというのは福島全体の特徴かもしれないですね。ただ、この本を書くにあたってこの時代の資料を読んでいると、当たり前ですけど、今の比ではないくらい女性が本当に忍耐強くて。そのうえ、雪さんなんて最後はすべて吞み込んで自決しますけど、そういう激しさをみんな胸に秘めて生きていて、改めて、会津の女性は忍耐強くてカッコイイという印象を持ったんですね。それこそ、私が神保夫妻を好きになったのは、1986年に放送された年末時代劇『白虎隊』がきっかけだったんですが、前編のクライマックスが神保修理の切腹で、そのときの修理さんの悲しさと雪子さんの覚悟を見てグッときて。みんなもその年はレコード大賞や紅白そっちのけでドラマを観ていて、年が明けて新学期が始まったときは、当時大人気だったアイドルの光GENJIの話より、「あの神保夫婦の愛はヤバイ」みたいな話をしてたんです(笑)。



芦名:『八重の桜』でも、修理と雪はとても仲のいい夫婦で、みんなからいい夫婦だって言われてました。でも、一緒にいたのはすごく短い期間なんですよね。修理が京都に行ったので、会津と京都で離れていて、会えないまま死んでしまう。そこはすごく切ないなと思いながら演じていました。修理が自決するとき、雪が舞うなか神社で手を合わせている雪にふっと不安がよぎるっていうシーンがあったんですけど、そこは自分のなかにグッと入ってきましたね。雪が自害するシーンよりも。


須賀:わかります。魂の片割れ感というか、そういうものが絶対あったんだろうなと思いますね。一緒にいた期間は短かったけれども、お互い本当に思い合っていて、それぞれの最期も、離れてはいるけど一緒だよという感じだったんだと勝手に思っていたんです。だから私、この本のふたり(鏡子と伊織)にそのイメージを重ねたんですね。会津と薩摩さつまで藩も違うし、全然会えないふたりなんですけど、やっぱり、会った回数とか一緒にいる時間じゃないんだっていう思いがあって。


芦名:そこはもう、本当に面白く読ませていただきました。自分が雪を演じたということはリンクしないで、主人公の鏡子とともにこの世界を走っていったような感じで。ただ、ここに出てくる女性はみんな、形は違えどひとつ通っているものがあるなというのはすごく感じました。それはやっぱり、さっきの福島の人の特徴というか、会津の“血”みたいなものなのかなと思います。



早く先を知りたくて、なんでもっと速く字が読めないんだろうって思った


須賀:ここに登場する雪子と中野竹子は実在の人物なんですけど、おっしゃっていただいたように、やっぱり会津を象徴していると思うんですね。雪子さんは会津の上のほうの家柄の娘さんで、嫁ぎ先の神保家も名家ですから、本当に典型的な会津の良き妻として生きられた方。一方、竹子さんは、江戸生まれ江戸育ちで会津弁も話されないし、会津女性としては破格のちょっと新時代の女性。その会津女の強さと会津の血を持ちながら違う場所で生きている女性の強さと、両方出したかったというのがあったんです。そして主人公の鏡子は、そのどちらでもないというか、どちらでもあるというか、名前の通り鏡なので、どっちの生き方も見て、どっちにも振れて、女の役割とは何だろうと思いながら生きていく。だから、それぞれに血を感じると言っていただけたのは、この3人を描いたのは間違ってなかったなという感じでうれしいです。今回は、どの人も共感するのが難しいかもしれないですけど(笑)。本の感想として「誰々に共感しました」という声をいただくことが多いので。


芦名:私は誰かに共感するというふうに読んでなかったかもしれません。台本を読むときでも、共感する部分とか自分に似てる部分を探すという作業は一切ないんです。自分の身体を通してその役に血を通わせてあげなきゃいけないので、自分の経験や想像からヒントを得ることはあっても、そのまま役にはめ込むことはあまりないんですね。そういう意味で、自分が出演する作品に関係がなく本を読むときは、もっと客観的に読めるので、誰かひとりに重きを置くことはなくて、むしろ、みんなわかるというか。今回もどの人も感覚的に理解しながら読んだんだと思うんです。



須賀:『八重の桜』を見直している私としては、芦名さんは私が思う雪さんのまんまだと思っていたので、今のお話を聞いてすごく不思議な感覚になりましたけど(笑)。もしかしたら、作家の感覚に近いのかもしれませんね。作家もいろんなタイプがいるので、もちろんキャラクターに入り込んで書く人もいますけど、私はどちらかというと全部俯瞰ふかんして書くタイプなんです。だから、血のこととか、全体像を見てテーマをまっすぐ受け取ってくださった感じがすごくうれしいです。


芦名:いえいえとんでもないです。でも良かったです。間違ったことを言ったらどうしようと思っていたのでホッとしました(笑)。でも本当に、最近は自分が出演しない原作を読むことが少なくなっていたので、この本を読ませていただけてすごく楽しかったんです。物語が最後に近づくにつれてどんどん盛り上がっていくから早く先を知りたくて、なんでもっと速く字が読めないんだろうって思ったくらい(笑)。ただ、これは台本を読むときも同じで私の癖なんですけど、「ちょっと待って。さっきなんて言ってたっけ」って、つい前に戻ってしまうんです。だから、速く読みたいのに進んでは戻ってとなって(笑)。ようやく最後に辿り着いたときは、何とも言えない気持ちになりました。信念を貫いて母となった女性が、その役割をバンと捨てる瞬間っていうのは、感動というのとは違う、鳥肌が立つ感覚になって。貫くものを持っている人だから浅はかな感情でした決断ではないはずだし。だから、表紙の絵も、読む前に見たときはただただ美しいと思ったんですけど、読み終わってから見ると、毒っぽいというか、荒々しいものもちゃんと表現されていると思ったんですね。


須賀:そうなんです。読む前と読んだ後ではだいぶ印象が変わって見えるんですよね。この目にいろんなものが入っているというか。こっちを向いているのに目が合わない感じがまたいいんですよ。違うところを見てるっていうのが。


芦名:そう思います。だから、すごく見入っちゃいます。


須賀:今回はとにかく全体的に女性が強くて、自分で言うのもおかしいんですが、女性パートは問題なく書けたんです。でも、男性のほうが、誰でしたっけ……伊織ですね、と名前を忘れるくらい(笑)、私にはわからない感じで、実は最後まで苦労したんですね。ただ、女性より男性のほうが、世の中の流れに乗っていかなければいけない役割を担っていることが多いので、“この流れは間違っているとわかっているけれども、結局は乗らないと生き残っていけないから乗った。でも本心としてはどうしてもついていけない”っていうような男性が今もけっこういらっしゃるんじゃないかなと思って。だから、「ま、頑張れよ」みたいな感じで(笑)、書いてみたんです。


芦名:男性のほうも私は「わかるわかる」っていう感じでしたけど、男の人ってだいたいこんな感じじゃないですか(笑)。


須賀:そうですよね(笑)。あーうれしい!


芦名:とくに最後のシーンで、鏡子さんのほうが「またそんなことしちゃって、しょうがないな」っていう感じになるところ。「これ今でもある。わかるわかる〜!」って思っちゃって(笑)。私は会津のこの、“内に強いものを秘めながら、女性が男性を立てる”という世界がすごく好きなんです。男性はけっこうふにゃふにゃしていて(笑)、女性のほうがスパンと潔い感じがしますし、私にもやっぱり福島の血があるからか、鏡子さんの最後の決断に、何の疑問も持つことがなかったんですね。今の時代に生きていると、ここまで心が強くなれないかもしれないけれども、自分がもし同じ立場に置かれたら鏡子さんのようにできるくらい強く生きたいなと思いました。こうやって命をかけて寄り添っていけるのはなんて美しいんだろうと思いますし。海のように相手を包んであげられる女性って理想というか、すごくカッコイイなと。母の自分を捨てていくところとか、本当に好きです。


須賀:実は、その母から女に戻るシーンを書くときは、ちょっと心配でした。やっぱり世間的にはノーマルな形ではないですから、これを書いて許されるのだろうかと思って。それで、連載時は、家を出るところで終わっていて、本にする段階でその後ふたりが会うところを書いたんですね。最後も、何とか幸せに逃げられないかなとかいろいろルートを考えたんですけどどうしても無理でしたし、会津の女なのでこういう道を選ぶだろうなと思ったんです。だから今、芦名さんからそういう言葉が聞けて、本当にうれしいです。


芦名:本当に素敵な最後でした。



福島が舞台になっていることが素直にうれしい


須賀:おかげさまで、書店の方々からも、舞台の『エリザベート』のようだとか、ありがたい言葉をいただいているんです。褒められた生き方じゃないのかもしれないですけど、でも女性のなかにはどこかしら、最後まで自分を貫いて生きて果てるみたいな、武士のような生き方をしたいっていうような思いがあるんでしょうね。それこそドラマや映画や舞台では、そういうものは男性の話として描かれることが多くて、志を持ってカッコよく生きている志士という感じですけど、資料を読んでいると実際は、みんなフラフラしてるんです。まさにふにゃふにゃという感じで(笑)、女性のほうが腹が据わってるんですよね。「お前はコロコロ変わるけど私はついていってやるよ」と。そういう女性の強さは普遍的なものだと思いますし、きっと今の女性のなかにもあるから、それがみなさんの心に届いて、『エリザベート』みたいだと感じていただけて、舞台化してほしいというようなことまで言っていただけたんだろうなと思います。


芦名:舞台化されたら私も観に行きたいです!


須賀:えっ、でも、お会いするまではやっぱり雪子さんのイメージがあったんですけど、今お話ししてて、内にものすごく強さを持った凛とした方だなと感じたので、芦名さんの鏡子を見てみたいと思ってしまいました。


芦名:いい作品は楽しませてもらって自分ではやりたくないんです(笑)。でも、あの最後のシーンはやりたいかも……って、演じるモードになったら急に意識が変わって、「目が澄んでいた」って書いてあるところはどんな目をしたらいいんだろうとか、考えてしまいます(笑)。映像で目のアップがあったらいいですけど、舞台となると難しいですよね。


須賀:みなさんが舞台化をとおっしゃってくださるのは、もしかしたら、本にするにあたって、編集者から「もっとドラマチックに、宝塚っぽく」というリクエストがあったからかもしれないんです。連載のときはもう少し歴史小説寄りだったので、「エモさをください」と言われて(笑)。それで私も、舞台についてそんなに詳しくはないんですけど、舞台っぽい表現を意識したので、そのへんを嗅ぎ取ってくださったのかなと。読者の方からいただいた感想にも、具体的に、「ここで舞台を回して、こんな照明で」って書いてあったりするんです。


芦名:私は映画もいいなと思いましたけど、なるほどそうだったんですね。でも、いずれにしろ生身の人間がやるのは難しそうですが自分の身体を通すとどうなるのかっていう興味はありますし、この強い感情が備わっている会津の人間として、鏡子さんの思いは私のなかに濁らずに持てるような気がするので、やってはみたいなと思いますけど。本で十分満足!とも思います(笑)。本当に読んでいて楽しかったですから。私としては、冒頭から「母成ぼなり峠」とか知っている地名が出てきて、すっとその世界に入っていけましたし。福島が舞台になっていることが素直にうれしいです。福島が舞台になる作品は今までそんなに多くなかったですから。


須賀:福島を描くって難しいですよね。山側と真ん中と海側の3つに分かれていて、それぞれで気質も違うので。


芦名:私は真ん中の郡山に住んでいて、祖父母が猪苗代いなわしろなので山にも行き、釣りをするので海側のほうにも行くんですけど、どこを取るかで違いますよね。全体で言うと、ラーメンがおいしいです(笑)。うちの家族はラーメンが好きなのでいろいろ食べに行ってます。あと、お酒もおいしい。


須賀:山を越えたら新潟なので、お酒もおいしいですよね。だから、福島というと、3.11以降どうしても震災のイメージがついてまわるところがあると思うんですけど、もちろんそれもとても大事な記憶なんですけど、それぞれの土地にすごくいい文化が残ってますし、ご飯もおいしいし、お水もきれいだし、そういうところから入って興味を持ってくださるとうれしいなと思うんです。こんな悲惨な話を書いておいてこんなことを言うのも何ですが(笑)。


芦名:でも、我が家も、本当に歴史の悲惨な話はしてこなかったんです。まったく耳に入ってこなかったわけではないんですけど。


須賀:本当に少数派ではありますけど、今でも、長州や薩摩を敵として見ている人もいたりするくらいですからね。


芦名:でも、祖父母の家に行っても、そんな話は聞いたことなくて、ふたりの兄はお祖父ちゃんに山へ連れて行かれて木を切ってまきの作り方を教えられるだけでしたし、私はお祖母ちゃんとご飯の支度をするので、きのこやふきのとうを採ってきて大根洗ってっていうのを教わるという感じだったんです。あとは、夜の花火と釣りが楽しみだったくらいで。


須賀:会津って悲劇の藩みたいに思われてますけど、武士と普通に生きている人ではだいぶ違っていて、会津藩が滅びるときも、お城はお城で戦っているけど、っていう感じだったそうなんです。だから今のお話を聞いて、戊辰ぼしん戦争のときも農民たちは普通に田畑で仕事して薪割りして暮らしていたんだろうなって、すごく想像ができました。また、この本で描いたふたりも、本人たちは悲劇だと思っていないと思うんですね。


芦名:その通りだと思います。


須賀:私としてはこれは、女性も男性も生き方が明確に決まっていた時代に、それでも自分の生き方を問いかけ続けた人の話だと思っています。結果、選んだ道は、リアルには真似してほしくないなと思いますけど(笑)、でも、生き方としては決して間違ってないと思うんです。だから、この主人公の姿が、今、生き方に迷っている人たちにも届けばいいなと思います。男性もそうですが、女性はなおさら、母であることとか妻であることっていう役割に縛られて、その役割と乖離かいりしていく自分に悩まれている方も多いと思うので。


芦名:この本が素敵なのは、目には見えなかったり、言葉では表現できないものが書かれているからだと私は思うんです。ドラマや映画もそうですけど、誰にでもわかる感情や関係性が描かれても私は心が動かなくて、自分でも解消できない、人間の奥底にあるような、何とも言えない気持ちが表現されていると突き動かされてしまうし、これはまさにそれがある作品だと思うんですね。その描かれていることをどう捉えるかは人それぞれだと思いますけど。でも、強い芯を持って生きる女性から、そしてふにゃふにゃしていても芯はしっかりある男性から(笑)、最後には言葉では言えないものをもらえるので。私と同じように早くページをめくりたいと思ってもらえると思います。


須賀:私の言いたいことを全部言ってくださいました(笑)。ありがとうございました。


芦名:こちらこそ、私も表現する仕事をするうえで、こういう感情をいかに届けるかっていうことが大事で、役者として表現したいのはこういうことだよねと再認識することができました。ありがとうございました。



芦名 星

(あしな・せい)女優。1983年生まれ。福島県出身。NHK大河ドラマ『八重の桜』、映画『鴨川ホルモー』、ドラマ『ST赤と白の捜査ファイル』など多数の作品に出演。直近では、2020年1月19日スタートTBS「テセウスの船」、1月18日スタート テレビ大阪「大江戸スチームパンク」、1月31日公開 映画「AI崩壊」などに出演。

須賀 しのぶ

(すが・しのぶ) 小説家。1972年埼玉県生まれ。上智大学文学部史学科卒業。2013年に「芙蓉千里」三部作で第12回センス・オブ・ジェンダー賞大賞を、16年に『革命前夜』で第18回大藪春彦賞を、17年に『また、桜の国で』で第4回高校生直木賞を受賞。

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