文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
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(解説者:
デビュー作『人間の顔は食べづらい』の高い評判を耳にしていたものの、読むタイミングを逸していた二〇一五年秋。第二作『東京結合人間』にはピンとくるものを感じ、予備知識もなく手に取ったのである。直感は正しかった。愛し合う男女が融合し、手足が四本ずつ生えた「結合人間」になるという悪夢のような設定をもつ『東京結合人間』は、ホラーや幻想文学、異端文学を中心に読んできた私にとって、偏愛せずにいられない怪作だった。これはただ事ではない。すぐさま『人間の顔は食べづらい』も読了し、その異様な才能にあらためて
さて本書は、二〇一六年に刊行された第三作『おやすみ人面瘡』の文庫版である。前二作同様、特殊設定を用いた本格ミステリーであり、論理的な「犯人当て」にこだわってきた著者の到達点ともいえる長編だ。
宮城県
それと並行して、海晴市の中学校に通う少女の物語が進行してゆく。海晴市はバイオテロによって人瘤病の集団感染が起こった海沿いの町。事件の舞台となった地区に暮らす彼女は、一か月学校を休んでいるツムギの様子を見てくるよう、担任のハヤシに命じられた。そこで幼なじみのツムギから、とある秘密を打ち明けられる。しかし「一年A組は最高のクラス」が口癖の熱血教師ハヤシが、生徒が欠けていることを快く思うわけがなかった。
カブたちの危険なビジネスを描いたパート〈fat girl〉と、中学生たちの行き場のない青春を描いたパート〈school girl〉。ネジが一、二本外れた登場人物たちが織りなすバイオレントで悪趣味、そのくせ妙にユーモラスな二つの物語は、荒廃しきった海晴市を舞台にやがて一つに重なってゆく──。
人瘤病患者の体にできる瘤は大きさ約十センチ。手足や胴体、顔や性器にまで浮き出すことがあり、(程度の差はあるものの)言葉を話すことができるとされる。この伝染病はもちろん架空の存在だが、人体に顔が浮き出すという奇病は「
しかもこうした不気味な世界を描きながら、その骨格はあくまで本格ミステリーだ。〈school girl〉のパートの後半、サラの周辺で殺人事件が発生する。その真相をめぐる推理合戦が圧巻だ。探偵役が
それにしても、特異なグロテスク
当日、取材会場に現れた白井さんは、こちらが拍子抜けするほどまっとうで、物腰柔らかな人だった。インタビュー中も終始穏やかな態度を崩さず、時おり照れくさそうに微笑みながら、ミステリーやホラーへの愛、そして物語を書くことの
思うに白井智之という作家を支えているのは、絶妙なバランス感覚なのだろう。異常で特殊な世界を好みながら、そちら側に行ききってしまわない健全さ。フィクションはフィクション、現実は現実と割り切ることのできる冷静さ。あるいはそれを「理性」と呼んでもいい。暴走しているように見える白井ミステリーが、実はすみずみまで目配りの利いたエンターテインメントに仕上がっている秘密もここにある。そのスリリングなハンドルさばきを
……と、
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