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特集

『人間の顔は食べづらい』文庫化記念、白井智之インタビュー&綾辻行人、有栖川有栖、道尾秀介からの質問状

2014年の第34回横溝正史ミステリ大賞最終選考会で物議を醸し、大賞受賞には至らなかったものの、選考委員の有栖川有栖氏、道尾秀介氏の強い推薦を受けて単行本で刊行された『人間の顔は食べづらい』。刊行後にはミステリファンの間で賛否両論を巻き起こした作品が、ついに文庫化されました。綾辻行人氏からは“鬼畜系特殊設定パズラー”の異名も授けられた、弱冠26歳の鬼才・白井智之氏。謎に包まれた著者に(ほぼ)初のインタビューを敢行。また、綾辻氏、有栖川氏、道尾氏からいただいた質問にもお答えいただきました。

── : デビュー作『人間の顔は食べづらい』がついに文庫化されました。初めての文庫化と、文庫化「解禁」と表現されていることについて、率直な感想をお聞かせ下さい。

白井: 嬉しいです。めちゃくちゃ嬉しいです。 ぼくは中学生のとき横溝正史がとても好きだったので、角川文庫に入るというのはひとしおです。当時の自分に会って自慢してやりたい気分です。 原稿を書いていたときのことも思い出しました。執筆中はデビューできるとは思っていなかったのですが、書くのが本当に楽しくて、ずっとニヤニヤしていました。刊行前に改稿をしていたときもとても楽しかったです。当時のメモを見返したら「はらわたが出た人間は死ぬ」と書いてありました。なんですかこれ。 「解禁」は鮎釣りみたいだなと思います。

── : 本作は「食用のクローン人間が飼育される日本」という、インパクト抜群の世界観のもとで描かれたミステリ作品となっています。執筆されたときの着想はどのようなものだったのでしょうか。

白井: この設定を考えたのは、「Foie gras, force feeding under scrutiny」という海外の映像がきっかけです。フォアグラができるまでを記録したものなんですが、鴨の口から胃へ金属の管を差しこんで、食餌を注入する場面があるんです。これを人間でやったら面白そうだなと思い、食用人間の設定を考えました。

── : すごいところから思い付きましたね(笑)。では、まず食用人間の設定があって、ミステリ的な仕掛けはあとから作り込んでいったということでしょうか。

白井: いえ、はじめに書いてみたいアイディアがあり、それに合わせて、設定を組み上げるという順番です。ただ設定ありきで考えた仕掛けもあるので、どちらが先とははっきり言えないです。

── : なるほど。本作でいうと、書いてみたいミステリ的なアイディアがあり、「食用人間」の設定と組み合わせた、と。

白井: そうですね。もちろん、設定を決めてから肉付けしたアイディアもありますが。

── : 本作の文庫には、道尾秀介さんが解説を寄せて下さっていますね。

白井: とても嬉しいです。ぼくは高校生のときに道尾先生の講演を聞いたことがあるのですが、まさか十年後にこんな日がくるとは思いませんでした。

── : 本作以降、『東京結合人間』『おやすみ人面瘡』(どちらもKADOKAWA刊)と2作の単行本を刊行されています。いずれも特殊な舞台設定での本格ミステリですが、執筆されるときに意識されていることなどありますか。

白井: 特殊設定については、単純に舞台設定として使うのではなく、ミステリとしてのアイディアを実現するために使うことが大事だと思っています。たとえば、警察が介入しない状況を作りだすために、吹雪の山荘を舞台にするのと、考え方は同じです。 あとはやはり、自分が読者として「この設定のミステリを読みたい」と思えるかどうかを大事にしています。

── : 道尾さんの解説の中で、すでに刊行されている3作は「“人間”シリーズ」として紹介されています。ということは、シリーズの新作の構想も……。

白井: はい、あります。自分でも書くのが楽しみです。

── : 「“人間”シリーズ」に共通して言えることですが、グロテスクな設定の中でも「ミステリ」であるところは崩れないのが白井作品の魅力だと思います。やはり「ミステリ」というものへの思い入れがあるのでしょうか。

白井: それはあります。子どものころからミステリが好きで、今も好きだから書いています。

── : いずれの作品でも「多重解決」が展開される場面がありますね。1つのテーマにされているのでしょうか。

白井: テーマというと大げさですが、ミステリの中で好きなパターンの1つです。 1つの事件に対して論理的に正しい推理をすれば、同じ解決にたどりつかなければおかしいですよね。多重解決というのは、「解決」でありながら、それ自体が謎にもなっている。この点が魅力的だと思います。

── : デビュー作でもあった本作の単行本が2014年刊行ですので、今年でデビューして3年になります。デビュー当時と今とで、執筆方法や読書傾向、私生活などで変わったことはありますでしょうか。

白井: 執筆方法も読書傾向もあまり変わらないです。私生活では体重が6キロ増えました。

── : では、作家になって嬉しかったことはなんでしょう。

白井: たくさんありますが、『おやすみ人面瘡』が本格ミステリ大賞の候補になったのは嬉しかったです。自分の名前が竹本健治先生や西澤保彦先生と並んでいるのは、夢を見ているような気分でした。

── : それでは最後の質問です。今後、どんな作家を目指したいですか。

白井: 自分がワクワクするような本格ミステリを書き続けられたら幸せだなと思います。 あとは昔嫌いだった体育の先生が、ぼくの本を読んで半日くらい具合が悪くなればいいなと思っています。


これまでに読んだり観たりした小説、漫画、映像作品の中で、最も「怖い」と感じたもの
をそれぞれ教えてください。それぞれに複数の回答でもOKです。

【小説】
●横溝正史『悪魔の手毬唄(てまりうた)』:山道ですれちがったおりんさんが実は……という展開がとても好きです。
●貴志祐介『天使の(さえず)り』:正体の分からないものほど怖いと感じます。

【漫画】
●藤子・F・不二雄『絶滅の島』:子どものころ読んで眠れなくなりました。
●望月峯太郎『座敷女』:いじめていた少女の正体が分かる場面がとても怖かったです。

【映像作品】
●リドリー・スコット『ハンニバル』:脳ってどんな味なんだろう、と考えました。
●白石和彌(かずや)『凶悪』:ゾンビや殺人鬼も大好きなのですが、最近は「身近にありそうな暴力」を描いた作品がとても怖くなりました。

ある日ふと書店を覗いたら、書いた憶えのない小説が棚に並んでいました。それはどんな本ですか?

『ぶつぶつ人間』というタイトルで、ひどい蕁麻疹にかかった少年の苦悩が綴られています。400ページくらいの単行本で、帯には「ベストセラー」と書いてあります。

一生、××しなくてすむ、という希望が三つかなうとしたら、何?

縄跳び、水泳、ドッヂボールです。恥をかくからです。
このほかには、排水口の掃除、皿洗い、歯磨き、引っ越し、運転免許の更新、確定申告、駅の乗り換え、二日酔い、こむら返り、インフルエンザの検査、胃カメラ、飲み会の幹事、苦手な同級生との再会などもできればしたくありません。


白井 智之

1990年千葉県印西市生まれ。2014年に『人間の顔は食べづらい』が第34回横溝正史ミステリ大賞の最終候補作となり、同作でデビュー。他の著書に『東京結合人間』『おやすみ人面瘡』。

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