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特集

鬼才が想像力の限りを尽くして挑む、壮大な異世界ファンタジーの新シリーズ!

撮影:澁谷 高晴  取材・文:杉江 松恋 

デビュー以来、幻想的・民話的な世界観の魅力的な作品を発表してきた
恒川光太郎さんが、なんと本作『スタープレイヤー』では本格的異世界ファンタジーに挑戦。
しかも、初のシリーズ化を目論んでいるという。
本作執筆のきっかけや意気込みを熱く語っていただいた。

〈単行本刊行時に「本の旅人」2014年9月号に掲載されたインタビューを再録しました〉


――恒川さんは、これまでも異世界を描いた作品を手がけておられます。ただしそれは純日本的な題材を用いていることが多く、一般人が異世界を垣間見るような書きぶりのものが主でした。一言で表すなら日常と非日常の往還を描いた作品とでも言いましょうか。今回の『スタープレイヤー』はそこがかなり違うように思います。


恒川:はい、元の世界と異世界との完全な断絶がある話です。一方的ですね。この世界の特徴的なところは、呼ばれてその異世界に行った人が、元いた場所から人や物を呼びよせることができる。たとえばそれは自分の愛する人かもしれないし、憎い人間かもしれない。それまで積み重ねてきた記憶を異世界に反映させながら生きていくことになるわけです。そういうところが今までの異世界系のファンタジーとちょっと違う部分だと思います。

なんでも願いが 叶えられるとしたら 人はいったい何を願うのだろうか


――連想したのはデフォーの『ロビンソン・クルーソー』です。あれも英国人が無人島に行って、ミニ英国みたいな植民地を作るという話でした。


恒川:似ている部分はあるかもしれません。自分の中にある生活をサバイバル先の場所で継続するわけですから。今回の夕月という主人公は、いきなり実家のコピーをそこに作ってしまう。実家があればまあ落ち着くか、という(笑)。


――そうやって異世界に行った人々はスタープレイヤーと呼ばれることになり、十個まで願いを叶えてもらえます。いわゆる「悪魔の契約」、何かを代償にして幾つまで願いが叶えられるというプロットの小説に見えるのですが……。


恒川:そういう話だと、調子に乗っていろんなことをするけれども、最後に代償を支払わせられるという展開が普通だと思うんですが、手垢のついた設定で何かを書くのに同じパターンを踏襲していてはいけないだろうと考えました。むしろ何でもできる力を持った人が、まさにその力によって悩んだり苦しんだりしながら、何者かになっていく話にしようと。主人公の考えをシミュレーションしていくのが楽しかったですね。


――前作が日本推理作家協会賞を受賞された『金色機械』でした。あれは日本の近世を舞台にした時代小説でしたから、作風がガラッと変わった印象があります。


恒川:私は前作の影響を受けて新しい作品を書くタイプでして。前作が暗いと次は明るい話、短い話の次は大長編とか、そういう心理が作品に出るんですよ。『金色機械』はすごくヘビーで長いんですけど、その前は『私はフーイー 沖縄怪談短篇集』という短篇集で、かつ現代を舞台にした内容のものでした。『スタープレイヤー』は自分にしては比較的短めだったので、次は大作を書こうと思ってます。


――なるほど、連鎖の関係があるわけですか。『スタープレイヤー』のおもしろいところは、主人公が行動圏を広げていくにしたがって、だんだん地図が広がっていくような感覚があることです。最初は何もない空間にいる感じなのが、徐々に隣人が現れ、共同体の存在が見えてきます。自分が子どもの時に町内しか見えなかったのが、だんだん市とか県とか世界が見えてくる。そういう視野が広がっていく楽しさがありますね。


恒川:そうですね。最初は本当に個人の話なんですけど、そこに自分と同じような能力を持っている人間が現れて、一緒に遊んだりする。


――基本的には楽しい感じですよね。あまり厭なことは起きないですし。


恒川:はい、楽しい感じが良かったんです。だから、主人公がちょっとね。原稿を見た編集さんが「ちょっとこの女の人は軽薄じゃないですか?」と書いてあって(笑)。彼女は軽いんです。それでけっこう失敗続きで生きてきた。こういう話だと、あんまりできる人は主人公には向いてないと思う。『ドラえもん』でも主人公がのび太だからおもしろいわけであって、出木杉くんだとおもしろくないでしょう。夕月という主人公はけっこう理性があってちゃんとしている部分と、バカな部分が同居している人なんです。庭にダイヤモンドの池とか作ってしまうような不思議なセンスもある(笑)。さらに言えば、人として下品なところがある。それでも根はイイやつという。


――彼女が昔酷い目にあわされた暴漢を呼び出す場面があります。あれは印象的でした。


恒川:「なんでも願いを叶えられたら人はどうするか」という小説なんですが、いくつかある可能性の中に「恨みのある人間をどうするだろうか」というのもあると思いました。話の展開としては脇筋の願いなんですが、あれを書くことで人の心の動きを確認する意味がありました。


――最初のほうの願いでは結構くだらないことも頼んでいたりして、後で「つまらないことをした」と自分に呆れたりしていますね。あと、そんなに立派なこともできない。


恒川:そうです。ちょっと小市民感があるんですよね。何でも願いが叶う話というと、王様になりたいと言ったら次の瞬間パッとどこかの玉座に座っているというパターンが多いと思うんですが、この物語は願いに具体性がないと叶わないんです。抽象的なものはダメで、自分で設定しなきゃいけないんですが、そこに知力とか状況判断力とかが反映されてしまう。それが欠けていると、必ず失敗するんです。夕月一人だけだと、願い事のバリエーションが出ないので、それで他のプレイヤーも出してみました。これはお金のない世界だから、お金持ちになりたい、という願いが効かない。じゃあ具体的に何がしたいのか、ということで一段心理が掘り下げられた気がしますね。


――サバイバルの話ですが、文明が消滅した後の世界で楽しく遊んでいるような感じもあって、そういう「終わらない夏休み」のような要素も楽しいと思います。


恒川:何か僕、そんな話が多いですね。好きなことを好きなだけできて、昼寝しても何しても自由という世界って、憧れちゃいます。だから書いちゃうんだと思いますね。最初の案だと、魔法の小説だったんです。編集さんに「魔法でブロックとか作って城を作る人の話を書こうと思うんですけど」と言ったら、非常にリアクションが暗かったので「これはダメだな」と(笑)。そこから試行錯誤をして今のかたちになりました。


――コマンドを端末に打ち込むとそれが実現する、というのはアドベンチャーゲームのようなのですが、この設定は後付けで出てきたものだったんですか。


恒川:最初は違いました。別に夕月の内面だけを描いても成立したと思うんですけど、途中から壮大な図が浮かんできました。ある惑星があって、そこには何でも叶えられる人間がたくさんいる。あちこちに散らばっているのはドイツ人だったりイタリア人だったり、元ホームレスだったり元殺人者だったりして、その人たちが地球から呼び寄せた人たちが例えば戦争したり、共和国を作ったり、バラバラで混乱した状況になっている。そういう惑星を舞台にしたものをシリーズで書いたらむちゃくちゃおもしろいんじゃないかなと思ったんですね。この小説だけだとまだ「私と十の願い」というテーマでまとまっているんですけど、次回作以降はそういう惑星のサーガとして書いていこうかと。視点人物も、そこに地球から呼ばれた人だとか、地球から来た人と交流する先住民だとか、いろいろなものが書けるんじゃないかなと思います。シリーズもの、まだ一作だけでシリーズになってないのにそう言うのはおこがましいですけど、こういう大きな物語を手がけるのは初めてなので楽しみです。あ、そういえば話が暗くないのも初めてですね(笑)。

恒川光太郎初のシリーズ作品は 「なんでもあり」の楽しい世界に


――恒川さんの特徴として、非常に大きく裾野の広がった作品を一冊で完結するように書くということが挙げられると思います。大河小説を一巻で仕上げるという。


恒川:短編だと「さあどうなるのでしょう? その辺は読者のご想像に」という終わり方が許されるし、そのほうが味があることも多いでしょう。ただ、ある程度の枚数以上になると読者に申し訳ないような、自分でも心の収まりがつかないような気がして、内容にまとまりがついた、一つの結末がついた時点でおしまいにすることが多いですね。僕は自分のことを、長編小説を短編小説で書く男だと思っています。今回はちょっと心を入れ替えて、長いものを長く書こうと考えているんです。もともとシリーズものは好きなんですよ。スティーヴン・キングの『ダーク・タワー』シリーズとか一生懸命読んでました。ファンタジーだと『ゲド戦記』は、1巻はもう最高に好きですね。この作品も、『指輪物語』とか『ナルニア国物語』とか、ああいう作品のファンに喜んでもらえそうなものを、というつもりで書いています。


――そう伺うと、シリーズの次を読むのが楽しみになりますね。


恒川:ただ、僕はシリーズというものの書き方が分からなくてですね。第一巻で書くべきことを書いてしまうと、二作目からはキャラクターをただ動かしてるだけになっちゃうんじゃないかと思うんですよね。僕の書く小説のメインの要素はキャラクターの過去とかなんで、それを最初に書くとおもしろみが減ってしまう。でも今回の設定だと、キャラクターを全とっかえしても世界観と設定は残すことができます。前のキャラクターを脇役で出してもいいわけで、自分にも書けるシリーズものという感じがしています。自由な時間軸で、どんな世界にもできる。制約がほとんどないという、実に嬉しい世界なんです。これはライフワーク的に書いていきたいですね。僕は自由なのが一番好きなんですよ。こういう路線で、とか編集者に言われると反骨心みたいなものが出てきて違う方向に動いてしまう(笑)。お肉食べなさいと言われるとお肉嫌です、となってしまうようなところがあるんですよね。それでビスケットを用意された途端にお肉を食べ始めるという。


――直近のものとは違う作品を書く、というのもそういうことなのでしょうね。読者としては同じ路線を続けてもらってもあまり問題ないのですが、書き手としては、という。


恒川:たくさん違うおかずが入っていたほうがお弁当などでもゴージャスな感じがするんです。そっちのほうがサービス精神があるという。これは自分の思い込みですけど。でも、そのほうが楽しめる気がするんですよね。


恒川 光太郎

1973年東京都生まれ。2005年『夜市』で日本ホラー小説大賞を受賞しデビュー。14年『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞。著書に『スタープレイヤー』『ヘヴンメイカー』など。

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