このたびは伊坂幸太郎さん最新作『AX アックス』&<殺し屋>シリーズへのご質問を多数お寄せいただき、ありがとうございました。皆さんからの質問&伊坂幸太郎さんのご回答を発表いたします! まず前半の25問から!
小説は書いてあることがすべてで、書かれていない部分は、「書かれていないことに意味がある(埋めてしまっては意味がない)」と思っています。絵の中の白い部分のような感じです。ですので、みなさんの質問に対しては、物語の裏設定を説明するというわけではなく、僕自身がその場で思いついたものを(大喜利に答えるような感覚で)回答していると思っていただければありがたいです。
――伊坂幸太郎
Q1 妻と兜が恋人同士だった頃のエピソードを教えて下さい。(AXXXさん 女性 17歳 学生)
伊坂: なかなか想像できないのですが、兜が興味のない観光地に行きながら、奥さんと話を合わせているような図は思い浮かびます。
Q2 古今東西の様々な物語で語られる殺しの手口。エンタテインメントとして、伊坂さんは何を参考に殺しの手口を考えますか?(トロさん 男性 38歳 会社員)
伊坂: 映画で描くようなアクションを、小説でそのまま描いても、映画には敵いませんから、「読んでいて楽しい」ものになるように意識はします。どれを参考に、ということはありませんが、淡々とあっけなく書くか、もしくは、笑えるくらい細かく書くか、どちらかにしたいとは思っているかもしれません。
Q3 『AX』は最初の三篇を書いてから、あとの二篇を書くまで時間がかかったというインタビューを読みました。二篇を書くきっかけとなった「何か」があって進んだのでしょうか。それとも書こうという気持ちがたまるまで待ったのでしょうか。(かまきりさん 女性 20歳 学生)
伊坂: どういう物語なら(気持ち的に)書けるだろうか、と考えたところ、「子供に何かを残す父親」の話なら書けるかもしれない、と思い至り、そこがひとつのきっかけにはなりました。
Q4 殺し屋を描いた書籍や映画で影響を受けた(感動した)作品はありますか?(ひろしさん 男性 20歳 学生)
伊坂: ローレンス・ブロックの殺し屋ケラーシリーズは大好きですので、その影響は明らかにあります。あとは、アキ・カウリスマキの「コントラクト・キラー」のオフビートな感じも好きです。
Q5 殺し屋のバックグラウンドは、読者に物語の説得力を持たせる上で、非常に大切と思います。小説の中で描く描かないは別にして、どのくらいまで実際に背景を掘り下げますか?(りんたろうさん 男性 20歳 会社員)
伊坂: 小説の中で書いていること以外のことは、実はあまり考えていません。完璧に背景を作るよりも、部分的な背景を描くことでその隙間を想像してもらえるのが理想です。
Q6 『AX』では殺し屋シリーズの懐かしいキャラクターたちが、兜の同業者という形で登場しました。殺し屋シリーズに限らず過去の作品の登場人物のうち一人をメインとした長編を書かれるとしたら、誰を抜擢しますか?(大羽翔さん 男性 20歳 学生)
伊坂: 蜜柑と檸檬を主役にした長編は興味があります。
Q7 伊坂さんは作品を執筆される際に登場人物のビジュアルについて特定の人(著名人、または知人友人など)をイメージすることはありますか?(理己さん 女性 20歳 学生)
伊坂: ほとんどありません。何度かお会いしたことのある渋川清彦さんの雰囲気はすごく好きで、毎回、どこかの登場人物に当てはめたくなるのですが、うまくいきません。
Q8 書籍に掲載できなかった恐妻家のエピソードがあれば教えて下さい。(yukarinさん 女性 21歳 その他)
伊坂: いくつかあるような気がしますが、ちょっと思い出せません(汗)。
Q9 『AX』も含めて3作品にはいろんな殺し屋が登場しますが、その中でも一番ご自分(伊坂先生)に似ていると思われる殺し屋は誰ですか?(ドットとネルスンさん 男性 21歳 学生)
伊坂: 殺し屋に似ているとは思わないのですが、七尾の普通っぽさは自分と重ね合わせているかもしれません。
Q10 兜が人生で、一番最初に狙った殺しのターゲットは、どんな人物だったのでしょうか?(かりおさん 男性 22歳 学生)
伊坂: どうなんでしょうか。悪人だったらいいな、とは思います。
Q11 麻雀など、学生時代にはまったことを作品に盛り込むことがあるとのことでしたが『AX』にもそういうモチーフはありますか?(JOJOさん 女性 23歳 会社員)
伊坂: 学生時代のことは反映されていませんが、蜂退治は理容師さんの体験談がもとになっていますし、ボルダリングは一度だけやったのを反映させています。
Q12 殺し屋シリーズ一作目から楽しく読ませていただいております。 これまでの殺し屋達も同様ですが、今回の主人公の殺し屋、「兜」という名前はどうしてつけたのでしょうか?(ちぼるんさん 女性 23歳 会社員)
伊坂: オオクワガタが好きなので、オオクワにしたかったのですがあまりピンとこないのでカブトムシのほうにしてみました。
Q13 『魚肉ソーセージ』に到達するまで、会話に出てきた食べ物以外で兜が試した食品とダメだった理由を教えて下さい。(yokoさん 女性 24歳 会社員)
伊坂: 恐妻家のプロとも言える編集者がすでに、「魚肉ソーセージが完璧だ」と到達していたので、僕自身はそれ以外のものを試していなかったりします。
Q14 『AX』にも過去の『殺し屋シリーズ』から何人かでていますが、どのキャラが出演するのか選定基準はありますか?(chiakiさん 女性 27歳 その他)
伊坂: その場で、「登場してほしいな」と思った人をそのまま書いているだけかもしれません。
Q15 『AX』感動しました! 小説の一番最後(ラストシーン)を決めてから書かれるのですか? 最後のエピソードに思わず涙がこぼれました。(りくさん 女性 30歳 会社員)
伊坂: どの作品も、最後の場面は小説を書いているうちにふと思いつくことが多いです。ただ、『AX』のラストシーンは実は、最後の最後、編集者に原稿を送る直前に思いつき、書き足したものでした。そこからさらに編集者と相談し、台詞を書き加えたりしています。
Q16 『AX』たいへん面白かったです! 殺し屋シリーズといえば、場面の切り替えで判子があり、視点が誰になるのか分かりやすくとても好きな演出なのですが、なぜ判子にしたのか、もしよければ教えてください!(なのさん 男性 32歳 会社員)
伊坂: 面白かった、と言われるとほっとします。判子にした理由はちょっと忘れてしまいました。担当者のアイディアだったのかもしれません。
Q17 兜が殺し屋を始めたきっかけはなんですか?(LEONさん 女性 33歳 会社員)
伊坂: 何なんでしょう。知りたいような、知りたくないような(笑)。
Q18 例えば『夜の国のクーパー』など、殺し屋シリーズ以外の作品からキャラが登場する可能性はありますか?(すずこさん 女性 33歳 その他)
伊坂: 今のところ考えていません。
Q19 伊坂さんの本が大好きです。小説家を目指しています! 目指すにあたってこれをするといいよ、みたいなことはありますか? 『AX』のように人を楽しませることができる小説が書けるといいなと思っています。(白さん 男性 19歳 学生)
伊坂: 僕もどうしたらいいのかは分からないのですが、ただ、自分が感動した映画や小説、マンガについて、「どうして感動したのだろう」と分析すること(語られる順序が良かったのだろうか、台詞のタイミングが良かったのだろうか、アイディア自体が良かったのだろうか、と考えること)が、自分の作品には役立っています。
Q20 伊坂さんは兜の奥様の様な、10歳近く若く見える気が強い女性がタイプなのですか?(なえさん 女性 33歳 会社員)
伊坂: たぶん、違う気がします(笑)。
Q21 「もともとシリーズで書くのは得意でない」と何かの座談会でおっしゃっていましたが、殺し屋シリーズをここまで書き続けていられるのはなぜでしょうか。(BOOOさん 女性 34歳 自営業)
伊坂: シリーズ物だと思っていないからかもしれません。毎回違った物語で、たまたま設定を使いまわしているだけ、という感覚です。
Q22 『AX』のカバーがとても好きです。こんなカバーにしてほしいというリクエストなどはされるのですか?(junさん 女性 34歳 自営業)
伊坂: 表紙については方向性を提案することが多いのですが、『AX』の場合は、デザイナーの高柳さんを信頼しているので、ただ、できあがるのを待っていただけでした(笑)。
Q23 伊坂さんは今までの殺し屋の中で、いちばん自分とかけ離れていると思うキャラクターは誰ですか? その理由も教えてください。(きっと似ているキャラクターを聞く質問はあると思いましたので)(kaorinさん 女性 34歳 自営業)
伊坂: 蝉とかは全然違いますね。
Q24 KADOKAWAから出る作品はいつもタイトルがカタカナだったのに、カタカナでなかったことに驚きました! 最初はカタカナにするつもりでしたか? 英字にすることに抵抗はなかったですか。書き始めからタイトルは決めていたのですか!?(yoshikoさん 女性 34歳 自営業)
伊坂: なんとなく英語二文字のタイトルにしたかったんですよね。シンプルで記号的なものがいいかな、と。ただ、その後で自分で「PK」という本を出してしまったので、新鮮さがなくなってしまいましたが(汗)。
Q25 最近の仙台のおすすめスポットを教えてください。今度シルバーウイークに遊びに行こうと思っています。どこかで伊坂さんに会えることを期待しつつ…。(旅子さん 女性34歳 自営業)
伊坂: 仙台を気にかけてもらえるのはありがたいです。ただ、「ここを見たほうが!」という場所があまりないんですよね(汗)。電車に乗ることにはなりますが、松島に行ったり、瑞巌寺を見たりするのは個人的に好きです。仙台駅構内も最近、新しくなって楽しそうなのですが、まだあまり見られていません。