世界的ベストセラー『自閉症の僕が跳びはねる理由』(角川文庫)の著者である東田直樹さん。書き下ろしの最新作『自閉症のうた』、文庫版『あるがままに自閉症です』、つばさ文庫版『自閉症の僕が跳びはねる理由』の刊行を記念した講演会が、7月15日(土)に開催されました。
第三回となる今回は、質疑応答編・第二部。障害児教育から女性観まで、難解な質問に臆せず答える東田さんに、質問の手が次々と挙がりました。講演会後の皆様へのメッセージとともにご紹介いたします。
【事前にお寄せ頂いたご質問への回答 Part2】
●「インクルーシブ教育」という考え方から、障害のある子どもも含めて通常学級で学べるようにしようという動きがあるようです。しかし、それをするとイジメを助長するのではないか、とか、学校全体の学力が落ちるとか、または障害者自身から特別支援学校で学ぶことの重要さも主張されています。東田さんは、どのような学校教育のあり方が理想的と考えられますか?
東田: 僕は同じ学校で、みんな一緒に学ぶことが理想だと思っています。学校時代に分けることに慣れれば、社会に出てもさまざまな理由をつけて、障害者を分けることになるでしょう。いくら学校で守られても、社会に出た時に、障害者に居場所がないのであれば意味がありません。
●東田さんは「記憶」に対して、点と点のようなもので、うまく線のようにつなげるのが難しいと、どこかの本に書いていらっしゃったような記憶があるのですが、小説を書く時には、どういう風にストーリーを立てていかれるのでしょうか。ひとつの「まとまった話」が自分の中で生まれて、それを文章に表していくのか、そのときそのとき、思い浮かぶシーンをつなげながらひとつの作品に仕上げていくのか。それとも全く違った方法なのでしょうか。
東田: 一番伝えたいことのシーンが思い浮かべば、あとは主人公が勝手に動き出します。そこまでは、一度に出来上がる感じですが、これは頭の中にあるイメージなので、それを言葉にする作業に時間がかかります。 記憶というのは、自分の過去を振り返ることです。小説を書くということは、物語をつくるということです。だから、全く別の脳の機能をつかっているのではないでしょうか。物語の続きをどうやって書くのか不思議に思われているのかもしれませんが、僕は点としての記憶はありますが、それがいつのことだったのか、思い出せないのです。物語と僕の行動として過去に起きたことの日時につながりは必要ありません。物語という点の中でストーリーをつくり続けていけばいいのです。
●作家東田直樹の女性観は、どんな感じなのでしょうか。
東田: 女性というのは、優しくて、か弱いというイメージがあったのは昔のことで、今は、強くてたくましいというのが、僕の女性に対するイメージです。これは、もちろん、精神的にです。人の意見に左右されない人が、僕は好きです。
●本を書こうと思ったきっかけはどのようなものですか?
東田: 自閉症である自分のことを知ってもらいたいと思ったことです。
●本を書く原動力はなんですか?
東田: これが自分の仕事だという意識です。
●本を書いていてどのような時が一番嬉しいですか?
東田: 読者の方に感想をいただいた時です。
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●(本を書いていて)難しいと思うことはありますか? もしあったらそれはなんですか?
東田: 作品の中で自分が伝えたいことが、うまく書けていないと感じた時、物語をつくる難しさを感じます。
●一冊につきどのくらいの執筆期間ですか?
東田: いろいろです。
●どのような人に向けて書いているなどはありますか?
東田: 作家が読者を選ぶことはできません。
●新刊(『自閉症のうた』)の中で「旅」の楽しさについて語られていますが、長時間飛行機に乗ったり、全く知らない土地に行ったりすることについて、不安や恐怖のようなものはないのでしょうか。というのも、「いつも通り」の日常が、東田さんご自身にとって安心感や幸福感をもたらす、ということもお書きになっていたと思うので、非日常になる旅行は割とストレスになってしまうのではないか、と勝手に想像していたからです。
「旅」にワクワクする気持ちと、非日常に対する不安、このバランスは子どもの頃と今と比べて変わりましたか?もし変わってきたのだとしたら、変わったきっかけ、ポイントは東田さんの意識の中にありますか?
東田: いつも通りは安心しますが、幸福とは限りません。どんな人も、非日常は、わくわく、どきどきするものだと思います。僕は乗り物に乗ったり、知らない所に行ったりすることに対して、それほど不安はありません。小さい頃は、旅先で泣いたこともありますが、楽しい経験が僕を少しずつ変えてくれました。 変わったきっかけのポイントは意識の中にはありません。旅先で感動する気持ちと、人との触れ合いの積み重ねの中にあると思います。
●「支援の在り方」についてブログなどでも書かれていますが、東田さんにとって、「これを『支援』と勘違いするな!」と言いたくなるような、具体的なエピソードはありますか?
東田: 具体的なエピソードを申し上げることは控えたいと思いますが、人の行動をコントロールすることは支援ではないと思っています。
●私は野菜を育てるのが好きで、最近畑によく行っています。畑にいる時とても幸せです。私は 高層ビルより山が好きです。人ごみより静かな場所が好きです。 都心より田舎が好きです。東田さんは「自然」について どうお考えですか?
東田: 自然は友達であり、心の支えです。辛い時、悲しい時、僕は自然に助けられてきました。誰にでも平等で、永遠の美を感じるのは自然だけです。
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【講演を終えて】
講演会にご参加くださった皆様、本当にありがとうございました。
終了後のアンケートにも、温かいお言葉をたくさんいただき、嬉しかったです。
僕は、きちんと話せたという自信がありませんでした。今も言いたかったことが皆さんに伝わったかどうか心配しています。自分の思いをそのまま言葉にするのは、誰にとっても難しいことではないでしょうか。
文章を考えているのは脳です。話す時には言葉を組み立て、どれだけ自分の気持ちが込められているのか、瞬時に判断しなければなりません。心が置いてきぼりになったとしても、一度出てしまった言葉を戻すことは出来ないのです。
登壇中は充分に考える余裕もなく、次々と言葉を紡いでいる間、僕の目に映っていたのは、参加してくださった方々のお顔です。僕が何を話そうとしているのか、皆さん真剣な表情で聞き入ってくださっていました。
とても有難かったです。
僕は「勉強会ではないので、リラックスして聞いてください」と皆さんにお願いしました。その方が、僕も話しやすいからです。
質疑応答の時間は、事前に頂いていたご質問の他に、その場での会場からのご質問にもお答えしました。
僕にとって講演会は、読者の方々との交流の場でもあります。いつもは本を通して僕という人間を知ってくださっている皆さんが、実際の僕をご覧になって幻滅するのではないかと不安ですが、これからも機会があれば、このような会を開催したいです。
東田直樹