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特集

東田直樹講演会「作家として僕が伝えたいこと」レポート第2回 質疑応答編第1部

世界的ベストセラー『自閉症の僕が跳びはねる理由』(角川文庫)の著者である東田直樹さん。書き下ろしの最新作『自閉症のうた』、文庫版『あるがままに自閉症です』、つばさ文庫版『自閉症の僕が跳びはねる理由』の刊行を記念した講演会が、7月15日(土)に開催されました。
第二回となる今回は、質疑応答編・第一部。いつも前向きな東田さんが怒ることはあるのか? 優しさとは何か? 事前にお寄せ頂いたご質問へのご回答とともにお楽しみください。

<<【第1回】講演&フリートーク篇

【事前にお寄せ頂いたご質問への回答 Part1】

●大人の人たちが東田君が言っている事を分かっていないだろうと思い込んでいて、目の前で東田君の話をしていたと言う経験はありますか。またその時どう思いましたか。

東田: あります。 誰でも、相手の様子を観察して、その人が、どんな人なのか判断します。そして、自分がどのように振る舞い、何を話すのかを決めるのだと思います。 相手が、何もわかっていないと思えば、普通、その人に対しての人間的な配慮はなくなるのではないでしょうか。 僕が、どう思ったかと言えば、悲しくてたまらなかったです。今では、仕方ないと諦めています。

●ご自身の「可能なこと」と「不可能なこと」についてどう考えていますか。
特に「不可能なこと」に関しては回避したり、克服しようと努力したりするのでしょうか。また、「可能なこと」をもっぱらに伸ばそうとするのでしょうか。

東田: 可能なこと、不可能なことという区別を自分の中でしたとたん、不可能が可能になるのが難しくなるような気がします。出来ないことの練習は少しずつでもやった方がいいとは思いますが、どれくらい何に努力するかは、生き方の問題だと思っています。それぞれが、どのような生活をしたいか、将来の夢は何か、それを考慮して取り組んでいけばいいのではないでしょうか。 僕の場合は、この先も作家として書き続けることが大きな目標なので、より良い作品を書くことを頑張っています。

●どうすれば、自己肯定感を高められるのでしょうか。

東田: 人と自分は違う人間だと、しっかりと認識することだと思います。人の価値観や生き方にひきずられるから、自分は、これでいいのかと、自分で自分のことを評価してしまうのではないでしょうか。生きることは、誰にとっても大変なことです。生きている今の自分を肯定するのは自分です。

●直樹さんは、どうやって自分を肯定しているのでしょうか。

東田: 僕の場合は、あまり自分に期待していません。 「今日も一日終わった。みんなありがとう」と思うことで、自分のことを責めずにいられます。 多くの人は、肯定感を上げることばかり気をつかいますが、もっと簡単にできることは、肯定感を下げないことです。人と比べたり、自分を評価したりしなければ、肯定感は下がりません。

●ご家族の存在が大きかったと思います。大人になってからの家族への思いは、どのようなものでしょうか。

東田: 家族への思いは、ずっと変わりません。僕を特別扱いせずに育ててくれたことに感謝しています。家族が、かけがえのない愛とはどのようなものかを僕に教えてくれました。

●発達障害で思い悩んでいた自分がすごく前向きになれました。自分を成長させるためのモチベーションというか、気持ちの源は何でしょうか。
※原文をすこし短くさせて頂きました(編集部)

東田: どうやって成長できたかは、成長したと感じることがあった時に、振り返って分析することで、わかるものではないでしょうか。ですから、成長の源というものはないような気がします。自分を成長させたいと思っている人は多いです。しかし、本来、成長とは、子供が大人になる過程で体が大きくなったり、出来ないことが出来るようになったりすることだと思うのです。自分がやるべきことは何かを決めて、それを一生懸命にやればいいだけです。

●「誰かの役に立つ」ということについて、直樹さんがどう考えているのか教えてください。

東田: 誰かの役に立つという考えは、気持ちに余裕のある人が思うことかもしれません。ぎりぎりの状態で生きている人は、いつも自分のためにしか生きられません。でも、そのことに罪悪感を抱く必要はないと思います。自分が一番大事だということは、自分が生きる権利を放棄していないことです。他の人はどうでもいいのかという問題とは別のテーマではないでしょうか。

●「著作を読んで、存在するということの不思議さを一層深く考えました」というメッセージについて。

東田: 存在することは不思議なことではなく、必ず起きることだったと捉えた方が、前向きになれると思っています。人は、偶然より必然に強い使命感を感じるからです。

●「少しでも利用者に寄り添った支援のヒントになればと思い、応募させていただきました」というメッセージについて。

東田: 僕なら寄り添う以上に、応援してほしいと思います。寄り添うのは親だけで十分だからです。小さい頃は、どうやったらよくなるのか、その方法を教えてほしいと考えていました。 質問してくださった方は、きっと利用者さんのことを本当に心配してくださっているのだと思います。いろいろな方法を試してください。みんなよくなりたいと願っています。

●(東田さんの)思索がどんどん深化していることに感銘を覚えると共に、その源を知りたいです。私にはできないことを突きとめていく過程を教えていただきたい。

東田: 突きとめているわけではなくて、僕は考えることをやめているのです。 疑問に思うことがあったら、そのまま頭の引き出しに入れます。答えを知りたいと思っている時には、答えは出てきてくれませんが、何も考えていない時に、その答えが見えてくることがあります。霧が晴れるみたいに、すべてを悟れる感じです。だから僕は、何も考えない時間も大事にしています。頭を空にすると、余分な思考が落ちて、大事なものが残ります。

●東田さんが、義務教育の教員に伝えたいことは何かありますか。

東田: 教育が人をつくるのではなく、人が教育をつくるということです。人は本来、学ぶ力を持っています。それに気づかせるのが教育の役割だと思います。教育とは当てはめるものではなく、その子にあった学習方法を教えるものではないでしょうか。

●教師の資質として一番大切なものは何だと思いますか。お考えを教えてください。

東田: 簡単には相手の立場に立って物を考えられない、それを肌で知っていることです。 人はすぐに、自分は正しいと思い込みます。 その人の立場に立てないことを知っている人は、相手の意見に耳を傾けようとします。

●ただ文章を書いたり人に読んでもらいたいだけであれば、ブログのような形でもできますし、実際直樹さんもブログをされています。それでもなお「作家」であろうとするのは、どうしてでしょうか?

東田: 24時間、書くことに時間をつかいたいからです。そのためには職業にすることが一番だと思っています。

●怒ることがありますか? どんな時に、誰に、何について怒りますか?

東田: インターネットの動画が途中で止まってしまった時には、動画に腹を立てます。

●文学の作家や作品に、特に好きなものはありますか? どういうところが好きですか?

東田: 好きな作品は、宮沢 賢治さんの『銀河鉄道の夜』です。日本語の美しさと独特のリズムに惹かれます。

● 絵や彫刻などの美術作品を見る時、どんなふうに見て、何を感じていますか? それは自然の美しさを見たり感じたりする時とは違う感覚ですか?

東田: 自然は、そこに存在していること、そのものが美しいのです。 美術作品は、つくられた美しさなので、惹かれるというよりは鑑賞するという感じです。僕は、作者が何を伝えようとしているのか、そのメッセージを作品から読み取ろうとします。 自然の美しさこそ、永遠の美ではないでしょうか。

●直樹さんにとって「自立」とはどういうことですか?

東田: 自分の思い通りに生きることです。

●はっきり嫌いだったり、どうにも苦手だったりする人がいますか?

東田: 特にいません。人を好き嫌いで分けることはないです。 好きや嫌いは物に対しての感覚で、苦手というのも、自分の行動に対して使う言葉だからです。 好きという感覚もぴんときません。僕にとっては憧れるとか尊敬するという対象になるのかもしれません。

●最も美しいと思う「ことば」はありますか?

東田: 「感謝」です。思いが溢れているという印象があります。

●これまでで一番答えるのが難しいと思った質問は、どんなものですか?

東田: 過去の事実を確認するような質問です。記憶があやふやなので、正確に答えられません。

(第3回につづく)


東田 直樹

1992年生まれ。会話のできない重度の自閉症で、パソコンや文字盤ポインティングでのコミュニケーションが可能。13歳で執筆した『自閉症の僕が跳びはねる理由』が世界的ベストセラーに。

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