世界的ベストセラー『自閉症の僕が跳びはねる理由』(角川文庫)の著者である東田直樹さん。書き下ろしの最新作『自閉症のうた』、文庫版『あるがままに自閉症です』、つばさ文庫版『自閉症の僕が跳びはねる理由』の刊行を記念した講演会が、7月15日(土)に開催されました。
重度の自閉症で会話でのコミュニケーションが困難な東田さん。いつもは原稿を読み上げる「講演」をメインに、質疑応答という講演の流れでしたが、今回はお客様との交流を深めたいとの希望から初めて「フリートーク」の時間を用意。間に休憩を挟んで、後半は質疑応答の時間となりました。さてどんな講演会となったのか……。スペシャル映像とともに、三回に分けてご紹介します。
第一回は、東田さんの「講演」内容と、続いて行われたフリートークの模様です。東田さんにとって書くということの意味、そしてコミュニケーションすることの難しさについて語ってくれます。意外なハプニングも!?
出版記念講演会にお集まりくださって、本当にありがとうございます。
今日は、僕が書くということを通し、どのようなことを考えているのかについて、お話しさせていただきたいと思っています。
僕は、作家という仕事をしていますが、もし、自分が作家になっていなかったら、どうしていたかということが、想像できません。
それほど、僕にとって書くことは、自然で当たり前のことなのです。
作家としてのスタートは、自閉症である自分のことを書くことでした。
しかし、自閉症だからとか、うまく話せないからといった理由が、どれくらい今の執筆への原動力になっているのかは、自分でもよくわかりません。
なぜなら、僕が現在、問い続けているのは、人間がこの世界に存在している理由、何のために人は生まれ、死んでいくかというテーマだからです。
成長と共に僕が学んだのは、自閉症であることは、嘆き悲しむことではなく、僕が、僕であるために、不可欠なことだということです。
社会に適応できなくても、不自由な思いをしても、僕は自分のままで、与えられた命を、全うしなくてはいけません。できないことばかりに目を向けることは、前向きな生き方にはつながらないでしょう。
自分を肯定することと、障害を受容することは、別の問題だという気がしています。
僕の自己肯定感は、障害を乗り越えたから生まれたものではありません。
自分を肯定する気持ちは、誰かに気づかされるべきものではなく、自分の中から、わき起こるものではないでしょうか。
考える力と生きる意欲を養うことが、自分を大切にする気持ちをはぐくむうえで、大切だと思います。僕の場合、自宅で普通高校までの学問を学べたこと、そして、人に思いを伝えるという練習をあきらめず繰り返し行ったことは、とても意味のあることでした。
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世界は、ありえないくらい広く、さまざまな人たちが生きています。
僕も、その中のひとりです。僕は、自分が生まれた奇跡に感謝し、これからも自分らしく生きて行こうと思っています。
自閉症である僕という人間が、僕なのです。
新刊は『自閉症のうた』というタイトルです。
この本では、エッセイの他、ふたつの物語を書きました。
人も動物なので、基本的には、自分のことしか考えられないのだと思います。それは、生物として当然の感覚ではないでしょうか。
にもかかわらず、多くの人が、他人のことを考えないことに、いつも罪悪感を抱いているような気がします。
人は愛や絆を大切にし、誰かの役に立っていることに喜びを感じます。ひとりでは生きられないことを、本能として知っているのでしょう。誰かを大切に思う気持ちが、心を揺さぶる言葉になる。そんなことを考えながら、僕は、この本を執筆しました。
エッセイや詩を書いている時も、物語を書いている時も、僕はどうしたら自分の気持ちをわかりやすく簡潔な文章で書けるのか、常に考えています。
僕の理想とする作品は、ひとつの文章からさまざまなことを読者に想像してもらい、読んだ後に、その人なりの物語を紡いでもらえるような、そんな作品です。
僕は、今後も作家であり続けたいと思っています。
どうしようもなく寂しくて苦しい日々の中で、自分の生きる意味を探すのは大変なことです。そんな時に、言葉が心を救ってくれることがあります。
明日のために、今日という日を生き抜かなければなりません。
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人が人であるために言葉は存在します。
僕の作品を読んで、大空を羽ばたくような気分になってもらえれば、僕は幸せです。