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自閉症の著者が自ら紡ぐ、人生の歩き方のヒント『自閉症の僕の七転び八起き』【あとがき】

文庫巻末に収録されている「あとがき」を公開!
本選びにお役立てください。

 僕は、自閉症という障害を抱えています。
 普通の人との違いが苦しくて、小さい頃は、いつも隠れる場所を探していたような気がします。けれど、そんな場所はどこにもなく、逃げても、逃げても僕を苦しめる現実から逃れることなどできませんでした。十代の半ばくらいに、自閉症である自分を否定するのはやめようと決心してからは、寂しさよりも、喜びに目を向けられるようになったと思います。自閉症であることが悪いわけではない、僕は、僕らしく生きていくことを決心しました。
 僕が話せなかったのは、何もわかっていないからではなく、話そうとすると頭の中が真っ白になり、言葉が消えてしまうためでした。筆談や指筆談(援助者の手の平に人差し指を使って文字を書く)を経験した後、僕は手を持つなどの介助を受けずに、「文字盤ポインティング」という方法で、自分の気持ちや考えを伝えられるようになりました。文字盤ポインティングとは、画用紙に書かれたパソコンのキーボードと同じ配列のアルファベットを、ローマ字打ちで一文字ずつ指し、言葉を綴る方法です。何年もの間こうして練習を続けた結果、僕は頭の中から消えてしまう言葉を、繫ぎ止められるようになったのです。
 本のタイトルに使っている「七転び八起き」という言葉は、何度失敗しても、あきらめずに立ち上がることのたとえです。
 落ち込んで、絶望して、もうどうにもならないとあきらめても、次の日はやって来ます。生きるためには、自分自身を励まし続け、明日に希望を見い出さなくてはなりません。
 世の中には転んだまま身動きできず、苦しんでいる人もいます。
 もがき苦しむ人の背中を押してあげられるのは、ささいなやさしさであったり、さり気ない人の言葉だったりするのではないでしょうか。
 僕が、この本で伝えたかったのは、転んでいるように見える人にも、たくさんの学びはあるということです。失敗や挫折から、人はさまざまな経験をします。つらかった過去も悲しい思い出も、今の自分を形作っている一部だといえるでしょう。
 転んで、起き上がって、また転ぶ。何が、いけなかったのだろうと思い悩む。その道のりが、人間としての成長に繫がるのではないでしょうか。
 行動を言葉で整理することで、客観視できることがあります。解決策が見つからなくても、なぜ、そのような行動をしたのか、周りの人にわかってもらえれば、心は思いの外、元気になります。
 巻末には「まばゆいほどの宝石でつくられた椅子」という短い物語も掲載しています。あなたにとっての真実とは何でしょう。そんな問いかけをした作品です。この本が、生き辛さを抱えた人たちの思いに少しでも寄り添えたなら、僕は幸せです。

二〇一九年九月
東田 直樹



ご購入&試し読みはこちら▶東田直樹『自閉症の僕の七転び八起き』| KADOKAWA


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