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レビュー

【評者:岸田繁】笑い終わったあと思考し、そして泣けるほど人のことが愛おしく思えるような珠玉の作品

 ナンシー関さんによるこの作品(というより研究成果)は、多くの悩める人々に読まれるべき「実践的哲学書」だと思っています。
 例えば「記憶を頼りに観覧車を描いてみてください」と言われて実際に描いてみる時、記憶の正確さ、曖昧さの他に「作為」や「自意識」、そして「その時のムード」などが介入してくることがわかります。
 罪の疑いをかけられた政治家や官僚が口にする「記憶にございません」という定型文を紐解くと、その真意はともかく、自分自身のやったことというのは、覚えていることと覚えていないこと、自分の都合のいいように改竄して覚えていることというものがあることが分かります。まぁ、殆どが嘘だと思いますが。
 どんな偉い人であろうと、身近な存在である家族や友人たちの正確なホクロの位置を全て記憶しているでしょうか。アイドルのファンなら、お目当てのアイドルの全てを記憶するのかも知れません。それは「執着」と呼びます。
 堅苦しい世の中です。スマホは高性能で、AIって凄そうです。人間、それらに負けてはいられません。人間はいざとなれば、とんでもない力を発揮しますが、普段はこの程度の記憶力で、思い出しながらこんな可笑しな絵を描くんです。可愛くて仕方ありませんよね。「人間なんてこんなもんですよ」という言葉は、未来を生きる人々にとって、大切な心の保険になるんだろうな、と思いました。みんな、お互い許し合いましょうよ、ねぇ、ナンシーさん。


>>ナンシー 関『ナンシー関の記憶スケッチアカデミー』

▼岸田繁さんの書評記事はこちら
いわゆる“怪談本”のような生易しいものではない――『怖い顔の話』
https://kadobun.jp/reviews/496/e271bb22
「オトコのカラダはキモチいい」ことをみんな別に知らなくてもいいけどコレは楽しい本だ――『オトコのカラダはキモチいい』
https://kadobun.jp/reviews/355/62b3aa4e
その人生自体が作品になった素晴らしい作家の素敵なメッセージ――『水木サンの幸福論』
https://kadobun.jp/reviews/273/52de1fbc
命の意味、なんて軽々しく語るもんじゃないと思うけれど、語らないと始まらない――『記者たちは海に向かった 津波と放射能と福島民友新聞』
https://kadobun.jp/reviews/177/1c4d9f05


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