心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 沈黙の予言

「心霊探偵八雲」ついに完結!1話読み切りで楽しめるシリーズ外伝!/神永学『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 沈黙の予言』試し読み④
死者の魂を見ることができる名探偵・斉藤八雲が、連続殺人事件の謎に挑む!
心霊探偵八雲シリーズとして、アニメ化もされている超人気作の外伝『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 沈黙の予言』 が3月24日に発売されます。
外伝は一話完結の絶品ミステリ。本編を読んだことがない方にも楽しんでいただけます。まずは、冒頭の40ページを発売に先駆けてお届け!
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◆ ◆ ◆
「そのもしかして──だ。彼女がバイトしているペンションは、赤い三角屋根の建物らしい」
八雲の説明を受けて、やっぱりと納得する。
緑に囲まれた、黒き水──から、山間の黒沢湖という連想ができる。赤い三角は、言わずもがな、ペンションの赤い三角屋根のことだ。
心霊現象に悩まされていた奈津実は、この予言を見て、自分が働くペンションで何か起きると
──しかも。
「七の月の最後の日──って、
晴香は驚きとともに口にした。
真実がどうであれ、奈津実はこの予言を信じ、自分の身に何か起きるかもしれないと感じ、八雲の
だけど──。
「予言が怖いんだったら、明日バイトを休めばいいんじゃないの?」
無責任なようだが、予言を怖れていたのでは仕事にもならないだろうし、それが最善の策な気がする。
「その文面だけなら、そうなるだろうな。だが、続きがある」
八雲に言われ、改めてスマホに目を向ける。よく見ると、予言には続きがあった。
逃げ出した者には、さらなる災厄が降りかかるだろう
「逃げても、駄目ってこと?」
こうなると、行かざるを得ない。だが、同時に引っかかりもあった。
「どうして、奈津実さんは、この予言が自分たちを指すものだって思い込んだんだろう?」
以前から起きていた心霊現象に怯えていた──というのはあるかもしれない。
それにしても、この
日本中に、類似する場所はいくらでもあるはずだ。
「理由は簡単だ」
八雲が、すっと
「え?」
「おそらく、彼女は予言に書かれている罪に心当たりがあるんだ。だから、必要以上に怯えている──」
それを聞き、納得すると同時に少し怖くなった。
今の言葉からして、奈津実は何かしらの罪を犯したということになる。しかも、命に関わるような重い罪──。
それは、いったい何だろう?
考えを巡らせてみたが、さっき顔を合わせただけの奈津実が何をしたのか、晴香に分かるはずもなかった。
ふっと八雲に目を向けたところで、一つ気になる問題が浮かんだ。
「それで、八雲君はどうするつもりなの?」
晴香が訊ねると、八雲は
「ぼくの知ったこっちゃない」
八雲がそういう反応になることは、予測はしていた。だが──。
「本当にいいの? 同級生なんでしょ?」
「さっきも言っただろ。同じクラスにいたことがあるだけだ。何かをしてやる義理はない」
八雲の声は冷ややかだった。
彼にとって、小学校時代に、あまりいい想い出がないのかもしれない。奈津実が気の毒に思えるが、八雲に無理強いするのも気が引ける。
「そっか……」
「ただ、無下に断れない事情もある」
八雲は、深いため息を吐いて
「事情?」
「彼女の家は、
──そういうことか。
八雲としては、断りたいのだが、世話になっている叔父の一心の顔に泥を塗るわけにはいかないということだ。
「ねぇ。私も一緒に行っていい?」
晴香は、考えるより先に口に出していた。
「は? まだ、行くと決めてもいないのに、君は何を言っているんだ?」
「だって……奈津実さん、
「そのお
──
「でも、八雲君だって放置するわけにはいかないって思ってるんでしょ?」
晴香が強い口調で言った。
しばらく黙っていた八雲だったが、やがて
3
「ねぇ。待ってよ」
晴香は、八雲の背中を追いかけるようにして歩いていた。
バス停でバスを降りてから、かれこれ二十分近く歩いている。こんなに歩くことになるなら、運動靴にすれば良かった。
もっとアクセスのいい場所かと思っていたのに、山道を延々と登ることになったのは想定外だ。
いや、想定はできた。昨日、八雲は山間の湖だと言っていた。何より、事前に場所を確認しなかったのが最大のミスだ。
「君が勝手について来たんだ。文句があるなら、帰っていいぞ」
八雲は、立ち止まるどころか、振り返ることすらせず、同じ歩調で歩いて行く。
まさに仰る通り。
勝手について行くと言ったのは、誰あろう晴香自身だ。
「そうだけど……もう少し、ゆっくり歩いてくれてもいいじゃない」
「悪いが、のんびりもしていられない」
「どうして?」
「君は、天気予報を見てないのか?」
「ああ。台風が来るってやつ。でも、あれって上陸するのは、明日以降でしょ」
ニュースを流し見した程度だが、台風が発生してはいるが、まだ
「君のような能天気な人間が逃げ遅れることになるんだ」
「え?」
「台風の位置にだけ注意していればいいというものではない。周囲の雨雲に影響を与え、広い範囲で大雨をもたらすものだ。常識だろ。ニュースでもやっていたはずだ」
「ご、ごめん……」
──そうだった。
悔しいが、たしかに、
八雲の言うように急いだ方がいいかもしれない。晴香は、気持ちを切り替えて歩調を速めた。
そうやって黙々と歩みを進めたが、緑が深くなるばかりで、一向に到着する気配がない。民家なども見当たらないし、本当に大丈夫なのかと不安になる。
「本当に、こっちで合ってる? 全然、ペンションとかないけど……」
「道は一本だけだ。間違えようがない」
八雲の言う通りだ。
曲がりくねっている上に、車一台がやっと通れるほどの狭い道だが、ずっと一本道だった。間違えるはずがないのだ。
──あとどれくらいあるんだろう。
急がなければならないというのは分かるが、このまま歩き続けていたら、倒れてしまいそうだ。
「やっぱり、少し休んでいこうよ」
「着いたぞ」
晴香の文句を遮るように、八雲が前方を指差しながら言った。
「おおっ」
目の前の光景に、晴香は思わず声を上げた。
(第5回へつづく)
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