KADOKAWA Group
menu
menu

試し読み

元米国ファーストレディが語る、不安の克服法とは? ミシェル・オバマ(山田 文 訳)『心に、光を。 不確実な時代を生き抜く』特別試し読み

元米国ファーストレディ、ミシェル・オバマの新刊『心に、光を。 不確実な時代を生き抜く』の邦訳版より、第二章「不安を読み解く」の一部を特別公開します!

作品特設サイトはこちら:https://kadobun.jp/special/michelle-obama/the-light-we-carry/


『心に、光を。 不確実な時代を生き抜く』試し読み


夫が大統領選に出馬する

 人生でいちばんの懸念を抱いたのは、バラクから合衆国大統領選挙へ出馬したいと初めて言われたときだと思う。その考えは実際、恐ろしかった。おそらくさらに悪いことに、二〇〇六年終盤の数週間で途切れ途切れに相談をつづけるなかで、バラクは決断は本当にわたし次第だとはっきり言った。バラクはわたしを愛していて、必要としていて、わたしたちはパートナーだ。つまり、この計画はリスクが高すぎると判断したり、家族にあまりにもたくさん問題が生じると考えたりするのなら、わたしがすべてを止められる。
 ひとことノーと言うだけでよかった。周囲のあらゆる人がしきりにバラクへ出馬を勧めていたけれど、正直なところわたしはやめさせるつもりになっていた。でもそうする前に、その選択について誠実に考える責任がバラクに対して——わたしたちに対しても——あると思っていた。最初の動揺をこえて、さらに考えなければならなかった。心配をふるいにかけ、いちばん合理的な考えを見つけなければならなかった。途方もなく感じられて怖じ気づくようなこの思いを、わたしは二週間ほど抱えていた。オフィスへの通勤のときも、ジムでの激しいトレーニングのときも、ずっと頭のなかにあった。夜に娘たちを寝かしつけて、夫の隣でベッドに横たわるときも。
 バラクが大統領になりたいのはわかっていた。すばらしい大統領になるにちがいないとも思っていた。でも同時に、わたしは政治の世界が好きではなかった。自分の仕事が好きだった。サーシャとマリアには、何がなんでも静かで落ちついた暮らしをさせてやりたかった。わたしは混乱や予測できないことが好きではないのに、選挙戦にはそれが山のようについてくる。評価にさらされることもわかっていた。評価に。大統領選に出馬することは、つまり投票によって自分を認めるか認めないかを示してほしいとすべてのアメリカ国民に頼むことにほかならない。
 言わせてほしい。これは恐ろしいことだった。
 ノーと言えばほっとするだろうと思った。ノーと言えば、いままでどおりで何も変わらない。すでに知っている人たちに囲まれて、いまの家、街、仕事に居心地よくとどまる。転校も引っ越しも必要ないし、まったく何も変わらない。
 そこでようやく、わたしの不安が避けようとしていたものが明らかになった。わたしは変化がいやだったのだ。居心地の悪さ、不確かさ、コントロールを失うことがいやだった。夫に大統領選に出馬してもらいたくなかったのは、その経験の先に何があるか予想できなかった——というよりは想像できなかった——からだ。もちろん、根拠のある心配もあったけれど、わたしが本当に怖がっていたのは何だろう? 新しさだ。
 これに気づいたことで、もっとはっきりものを考えられるようになった。大統領選出馬という考えはそれほど途方もないものではなく、怖じ気づくようなものでもないと思うようになった。心配をけすることで、身がすくむことはあまりなくなった。わたしはずっと前から——はるか昔、ロビーおばさんの劇でウミガメと出会ったときから——その練習をしていたし、バラクも同じことをしていた。ふたりともたくさんの変化、たくさんの新しいことをくぐり抜けてきたのだ。わたしは自分にそう言い聞かせた。
 ティーンエイジャーのとき、わたしたちは安全な家族のもとを離れて大学へ進学した。転職もした。いろいろな場所でひとりきりの黒人として生き抜いてきた。バラクはそれまでにも選挙で勝ち、負けていた。不妊、親の死、幼い子どもを育てる重圧に対処した。不確かさのせいで懸念を抱いた? 新しさのせいで居心地が悪くなった? もちろん、何度も。でも、その一歩一歩でさらなる能力と適応力を発揮しなかった? 発揮した。実はわたしたちは、すでにかなりの練習を積んでいた。
 結局、わたしはそんなふうに自分を納得させた。
 不安のせいでわたしが歴史の流れを変えていたかもしれないと思うと、不思議な気分になる。
 でも、そうはしなかった。わたしはイエスと言った。
 何よりわたしは、もうひとつのバージョンの物語を生きたくはなかった。夕食のテーブルを囲んで、選ばなかった道のことを語ったり、ひょっとしたらこうなっていたかもと話したりする一家にはなりたくなかった。お父さんは大統領になっていたかもしれないんだよと、いつか娘たちに話さなければならないのはいやだった——お父さんはたくさんの人から信頼されていて、とてつもないことをやろうとする勇気があったけれど、わたしがその可能性を捨てたのだと。みんなのためというふりをしながら、実はいまの自分の安心感と現状を維持したいという気持ちを守ろうとしていたために。

(続きは本書でお楽しみください)

作品紹介



心に、光を。 不確実な時代を生き抜く
著者 ミシェル・オバマ訳者 山田 文
発売日:2023年09月26日

元米国ファーストレディが語る、不安の多い世界との向き合い方
58年、わたしは不安を抱えて生きてきた。
場ちがいだ、ここにいるべきじゃない、誰もわたしを気にとめていない。
まわりから浮いている。
でも、ちがう。

どんな世界に暮らしたい? 誰を信頼する? 子どもはどうやって大人になる?
人生の大きな問題に、わかりいやすい解決策なんてない。

不安を抱える人たちに、心から安らげる場をもたらしたい。
少し自分の世界を広げるために、リスクを取ることを恐れない。
誰かといっしょに自分の問題を考えることには、意味がある。

さあ、心の中にある光を、見つけよう。

特設サイト:https://kadobun.jp/special/michelle-obama/the-light-we-carry/
詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322301001060/
amazonページはこちら


紹介した書籍

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2025年4月号

3月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2025年5月号

4月4日 発売

怪と幽

最新号
Vol.018

12月10日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

ユビキタス

著者 鈴木光司

2

ねことじいちゃん(11)

著者 ねこまき(ミューズワーク)

3

メンタル強め美女白川さん7

著者 獅子

4

別冊ダ・ヴィンチ 令和版 解体全書 小説家15名の人生と作品、好きの履歴書

吉田大助 ダ・ヴィンチ編集部 西加奈子 辻村深月 佐藤究 米澤穂信 凪良ゆう 伊坂幸太郎 加藤シゲアキ 小川哲 金原ひとみ 森見登美彦 綿矢りさ 朝井リョウ 中村文則 万城目学 村田沙耶香

5

気になってる人が男じゃなかった VOL.3

著者 新井すみこ

6

意外と知らない鳥の生活

著者 piro piro piccolo

2025年3月24日 - 2025年3月30日 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

アクセスランキング

新着コンテンツ

TOP