累計300万部突破! 伊坂幸太郎屈指の人気を誇る〈殺し屋シリーズ〉の最新長篇小説『777 トリプルセブン』が、2023年9月21日(木)に発売となりました。
刊行を記念し、冒頭部分約40ページが読める大ボリューム試し読みを掲載! 全11回の連載形式で毎日公開します。
気になる物語の冒頭をぜひお楽しみください!
★シリーズ特設サイトはこちら:https://kadobun.jp/special/isaka-kotaro/koroshiya/
ウィントンパレスホテルに向かう六人の殺し屋たち――伊坂幸太郎『777 トリプルセブン』大ボリューム試し読み#10
車道
六人組を乗せたSUVが、ウィントンパレスホテルに向かっている。
「アスカ、あとどれくらいで着く?」
「ナビの到着予定時刻を信じるなら、あと十五分くらい」
「そこに乾が捜している女が宿泊しているのか」
「何て名前だっけ」
「紙野でしょ。紙野結花。それくらい覚えておいたほうがいいよ、カマクラ」
「待っててね、紙野さん」
「なんか、楽しいよね」「ヘイアン、何がだ」
「一生懸命隠れてる人を、追い詰めて捕まえるのって楽しいでしょ」
SUVには六人が乗っていた。運転しているのがアスカ、助手席にナラが座っている。二人はともに二十三歳で、六人の中では最年少だった。富裕層家庭で育ち、二人とも三人姉妹の三女、インターナショナルスクールに通っていた上に家庭から放逐された、と共通点が多かったが、異なる点も多い。アスカは
二列目にいるカマクラは二十六歳の男、アスカ同様、外見が、「一般的に理想」とされる要素でできあがっており、男性ファッション誌のモデルとしてスカウトされた経験もあった。
カマクラの隣に座るヘイアンは二十八歳、小柄で、垂れ目と喋り方のためか、「おっとりとしている」「頭の回転が遅く、論理的な判断が苦手」と決めつけられることが多い、と自分でよく嘆く。実際の性質はその正反対、せっかちな上に頭の回転が速く、物事を合理的に決断し、最短距離で課題を処理したがる性格だった。
後ろの三列目、左側に座るセンゴクは三十歳、アメリカンフットボールの選手だと言ったほうが受け入れられるほどに身体が大きく、胸板の厚さや二の腕の太さには迫力がある。感情を
センゴクと少し間を空けて座っているのが最年長者、三十五歳のエドだ。もともとはエドが、ほかの五人を集め、仕事を始めるようになった。グループを仕切る役割を担っている。
「エドさん、最近聞いたんだけれど、昔、業者殺しっていたの?」カマクラが振り返るようにし、三列目のエドに言った。
「あ、わたしも聞いたことある。だいぶ前でしょ」
「ヘイアンは意外に情報通だよね。わたしは知らない。何それ」
「ナラが、情報に疎いだけだよ。業者殺しっていうのがいて、めちゃくちゃ強かったんでしょ。一年弱で、二十人とか三十人とか殺されたとか」
「そういう数字って怪しい気がする。二十人と三十人じゃ全然違うし。しかも、一般人じゃなくて業者が、そんなにやられる?」運転席のアスカが声を上げる。
「十五年前だから、俺がこういう仕事をする少し前の話だ」エドが説明した。
「俺、小学生だ」「わたしも」「その人、今どうしてるの。男? 女?」
「ヘイアンは興味津々すぎる」
「だって聞いた噂だと、五人くらいの業者に囲まれて、全員、両腕使えなくしたって話だよ。興味深いでしょ」
「両腕を折ったってこと?」
(つづく)
作品紹介
777 トリプルセブン
著者 伊坂 幸太郎
発売日:2023年09月21日
そのホテルを訪れたのは、逃走中の不幸な彼女と、不運な殺し屋。そして――
累計300万部突破、殺し屋シリーズ書き下ろし最新作
『マリアビートル』から数年後、物騒な奴らは何度でも!
やることなすことツキに見放されている殺し屋・七尾。通称「天道虫」と呼ばれる彼が請け負ったのは、超高級ホテルの一室にプレゼントを届けるという「簡単かつ安全な仕事」のはずだった――。時を同じくして、そのホテルには驚異的な記憶力を備えた女性・紙野結花が身を潜めていた。彼女を狙って、非合法な裏の仕事を生業にする人間たちが集まってくる……。
そのホテルには、物騒な奴らが群れをなす!
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