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試し読み

「業者殺しがまた動き始めたんじゃないか」――伊坂幸太郎『777 トリプルセブン』大ボリューム試し読み#11

累計300万部突破! 伊坂幸太郎屈指の人気を誇る〈殺し屋シリーズ〉の最新長篇小説『777 トリプルセブン』が、2023年9月21日(木)に発売となりました。
刊行を記念し、冒頭部分約40ページが読める大ボリューム試し読みを掲載! 全11回の連載形式で毎日公開します。
気になる物語の冒頭をぜひお楽しみください!

★シリーズ特設サイトはこちら:https://kadobun.jp/special/isaka-kotaro/koroshiya/



「業者殺しがまた動き始めたんじゃないか」――伊坂幸太郎『777 トリプルセブン』大ボリューム試し読み#11

「両肩をだつきゆうさせる、と聞いた」エドが答える。
「わあ、何それ」ヘイアンが、スポーツ選手の新記録を聞いたかのような、喜びと好奇心のいりまじった声を発した。
「コツをつかんでいるのか、あっという間に肩の関節を外して、動けなくするらしい。腕が使えないようにして、殴り殺していたようだ」
 ナラとカマクラが歓声がわりの、口笛にも似た声を上げる。「両腕動かせないのは、さぞやもどかしいだろうね。抵抗できない相手を、ひたすら痛めつけるとか、楽しそう」「俺もやってみたい」
「だけど、どれも伝聞ではっきりしない。押し屋って聞いたことがあるだろ」
「あの、電車とか車にかせる業者?」
「あれも都市伝説だって話があるからな。事故死した人間が業者にやられたことになっているだけ、という。それと同じように、当時、何らかの事情で死んだ業者は、業者殺しにやられたと言われていただけかもしれない」
「もしくは、どこかの金持ちが自作の武器で、悪い奴らを懲らしめていたのかもよ。映画に出てきそうでしょ」アスカが言う。
「両肩を脱臼させてから殺す正義の味方、いいね。ダークヒーロー中のダークヒーロー。映画化しても、わたしたち以外、誰も応援しないかも」
「だけど、活動期間は一年くらいで、消えた」
「活動、って言い方が正しいのか?」センゴクがぼそっと洩らす。
「浮世絵師でいなかったっけ。一年弱しか活動していなかった、謎の絵師」
しやらくね。写楽の正体は誰か、ってたくさん説があるけど。その業者殺しも、それみたいなものかもね。なぜ一年でいなくなったのか」
「一年くらいで死んじゃったってことじゃないの? だから一年で、活動が終わっちゃった、と」
「死んだと見せかけて、モンゴルに渡ったとかないのかな」ヘイアンが言う。「わたし、好きなんだよね、義経伝説」
「それがさ、最近また現われているらしいよ」カマクラが言った。そもそもそのことから、話題にしたのだ、と。
「最近現われてるって、誰が」
「業者が殺害されているんだって」
「どこの誰」「さあ」「まあ、大騒ぎになっていないってことは、そんなに大した業者じゃないのかもね。それに、業者が殺されることなんて珍しくないでしょ。危ない仕事が多いんだから」
「両肩の関節が外されていたらしいよ」
「あら」
「もしかすると、業者殺しがまた動き始めたんじゃないか、って言ってる人がいた」
「今の時点では何とも言えないな」エドが答えた。「本歌取りみたいなものかもしれない」
 車が急停止する。二列目シートに腰かけていたカマクラの体がつんのめるようになり、運転席の背もたれにぶつかった。「何だよ、アスカ。運転下手だな」
「前の車が急に停まるから」
 助手席のナラは特に気にした様子もなく、腕を組み、むすっとした顔をしたままだ。
 また車が動き出す。
 カマクラは身体を傾け、前に視線をやる。フロントガラス越しに、黒いセダンの後ろ姿が見えた。ブレーキランプがつき、停止した。アスカがブレーキを踏んだのだろう、またこちらの車が前に倒れ掛かるようにし、停まる。
 右車線から追い抜こうと試みても、前の車は斜めに飛び出す形で妨害してくる。
あおり運転のお手本みたいだね」
「エドさん、こんな運転に付き合っていたら、時間がかかって仕方がないんだけれど。ぶつけてもいい?」アスカが車内全体に聞こえるような声を出した。
「そうだな。さっさと」
 そこからは、特に打ち合わせをしたわけでもないにもかかわらず、打ち合わせをしたかのように事が進んだ。
 前方車両が先ほどまでと同様、急停止する。先ほどまでと違うのは、アスカがブレーキをすぐには踏まなかったことだ。当然の帰結としてSUVは、車両にぶつかる。
 前方の車は、どん、とはじかれるように押し出された。しんとした間の後、ドアが開くと運転席と助手席から若い男が二人、降りてきた。
 Tシャツに短いパンツを穿き、夏場の海辺で似合いそうな服装をしている。鍛えられた筋肉が袖からあからさまにのぞいていた。
「俺が行ってくる」カマクラは右側ドアのスイッチを押し、スライドドアを開くとすぐに降車した。ほぼ同じタイミングで左側のヘイアンも降りた。
「ちょっと、ぶつけないでくださいよ。お兄さんたち、弁償してくださいね」
 若者二人はへらへらと言った。カマクラは顔立ちの整った、恋愛映画に出演する二枚目俳優にしか見えなかっただろうし、ヘイアンにいたっては、小柄で可愛らしい女の子にしか思えなかったからか、子供を相手にするような、余裕のある態度を見せていた。
「いやあ、すみません。急に停まるから、ぶつかっちゃって」「でも、見方を変えるとそっちがぶつかってきたのかもね」

(続きは本書でお楽しみください)

作品紹介



777 トリプルセブン
著者 伊坂 幸太郎
発売日:2023年09月21日

そのホテルを訪れたのは、逃走中の不幸な彼女と、不運な殺し屋。そして――
累計300万部突破、殺し屋シリーズ書き下ろし最新作
『マリアビートル』から数年後、物騒な奴らは何度でも!

やることなすことツキに見放されている殺し屋・七尾。通称「天道虫」と呼ばれる彼が請け負ったのは、超高級ホテルの一室にプレゼントを届けるという「簡単かつ安全な仕事」のはずだった――。時を同じくして、そのホテルには驚異的な記憶力を備えた女性・紙野結花が身を潜めていた。彼女を狙って、非合法な裏の仕事を生業にする人間たちが集まってくる……。

そのホテルには、物騒な奴らが群れをなす!

詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322305000745/
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