【連載小説】押収した物は決定的な証拠となるか? ──女性刑事二人が特殊犯罪に挑む。 矢月秀作「プラチナゴールド」#8-1
矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。
前回のあらすじ
警視庁刑事部捜査三課の椎名つばきは、捜査の失敗から広報課に出向となった。合コンが大好きな後輩・彩川りおと交通安全講習業務に従事していたところ、通信障害が周囲に発生。現場で二人は携帯通信基地局アンテナを盗みだそうとしている犯人を捕らえた。そのことで椎名は捜査課復帰となり、彩川は異動して椎名とともに専従捜査班に加わることとなった。捕らえた犯人や容疑者たちから、事件解決のヒントを得た二人は、怪しい企業の捜査に乗り出す。
4
警視庁本庁舎に猛スピードの車が突っ込んだ。タイヤを鳴らしながら横滑りし、玄関前で停まる。
立番の若い男性警察官が血相を変えて、駆け寄ってきた。
「君!」
運転席のドアに手を掛ける。
と、ドアが思いっきり開いた。警察官が
「何をする!」
「あ、ごめんなさーい!」
りおは車から降り、警察官に駆け寄った。
「大丈夫ですかあ?」
「ああ、君は広報の──」
「はい、
にっこりとして、少し顔を近づける。警察官の頰が少し赤らんだ。
「今は、捜査三課の刑事です」
唇をギュッと引き結んで、敬礼してみせる。
あざとい愛らしさに、警察官の頰が緩んだ。
「急いでいたので、ちょっと乱暴な運転になってしまいました。本当にごめんなさい」
「いえ、緊急なら仕方ないかと」
警察官は立ち上がって、ズボンの砂粒を払った。
「申し訳ないんですけど、この車、
「承知しました。手配しておきます」
「ありがとうございます」
りおが肩を少し近づけて上目遣いに
「こら! 何、色目使ってんだい、彩川!」
玄関の方から、女性の大声が響いた。
警察官はあわてて真顔になり、直立した。
「あっ、蘭子さーん!」
りおは笑顔で手を振った。
「さーん、じゃねえよ」
蘭子は
「
「あ、そうそう」
りおは車内に上半身を入れた。グレーのタイトなパンツに包まれた小さなお尻がぷりんと突き出る。
警察官の視線が思わずりおの尻に向く。
蘭子は
りおが車内から出てきた。
「これです」
小さな部品三点を蘭子に渡す。
蘭子は受け取った部品を見た。
「セラミックコンデンサーだね。でかした。行くよ」
蘭子がりおを促す。
「どこへ行くんですか?」
「鑑識だよ。
「課長もですか? なんでです?」
「説明は歩きながら」
蘭子は庁舎内へ歩きだした。
「待ってくださーい。車、お願いしますね」
りおは警察官に微笑みかけ、小走りで蘭子を追った。
横に並ぶ。
「おまえ、もう少し、だぼっとした服を着ろ」
「なぜです? かわいくないですか、これ?」
上着を
「捜査に色気はいらねえって」
「えー、このパンツスーツ、そんなにお色気ってほどではないと思うんですけどー」
「天然女子力か……」
蘭子がつぶやく。
「なんです?」
りおは蘭子の顔を覗き込んだ。
「なんでもねえ」
蘭子は返し、歩を速めた。りおがついていく。
蘭子とりおは一階フロアを右奥へ進んだ。突き当たり手前で止まり、ドアを開ける。鑑識課の部屋だった。
「やっと到着か」
「ただいま戻りました」
一礼し、杉平と野田坂が待っているブースへ向かう。
蘭子が先に駆け寄る。パソコンの前には、若い男性の鑑識課員が待機していた。
「どうだ?」
野田坂が蘭子を見た。
「いい部品拾ってきました」
蘭子はセラミックコンデンサーを摘んで、目の高さに上げた。
「これなら、すぐ判別は付きます」
そう言い、鑑識課員の手元にセラミックコンデンサーを置く。
「製造番号と個体識別番号を照合して」
蘭子が指示すると、鑑識課員はさっそく部品を見始めた。
電子部品には必ず、製造年を示す番号とその部品自体に割り振られた個体識別番号が記されている。部品に不具合があった場合、すみやかにリコールをかけられるためだ。
それぞれ別に記載されている場合もあれば、製造番号と個体識別番号が併せて記されていることもある。
蘭子が渡したセラミックコンデンサーは、製造番号と個体識別番号が同じものだった。
鑑識課員がデータベースの検索枠に数字を入れ、エンターキーを
一瞬で結果が表示された。
▶#8-2へつづく