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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.28

【連載小説】つながる二つの事件!? ──女性刑事二人が特殊犯罪に挑む。 矢月秀作「プラチナゴールド」#8-2

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。
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しぶで盗まれた携帯基地局のものですね」
 鑑識課員が淡々と伝える。
「えー! ビンゴですか! じゃあ、さっそく全員逮捕ですね」
 りおがとした声を上げる。
 が、野田坂も杉平も、蘭子の表情も重い。
「どうしたんです?」
 りおは全員の顔を見回した。
「逮捕状は取れないんだよ」
 蘭子が言う。
「どうしてです?」
 りおがくと、杉平が笑顔を向けた。
「この部品は椎名が潜り込んで取ってきたものだろう? 不当な手段で入手した証拠品は、証拠として使えない。だから、それを元に逮捕状を請求することもできないんだよ」
 優しく教える。
「そうなんですか?」
 りおは野田坂を見た。野田坂は渋い顔でうなずいた。
「どうするんですか? 椎名先輩、今晩、倉庫で動きがあると言ってました」
 りおが訊く。
いち君、椎名から連絡のあったナンバーの車輛の詳細は調べたか?」
 野田坂はりおに答えず、蘭子に訊いた。
「はい。当該白ワゴンの所有者はなかおかみつのりという男性でした。その中岡光則を調べてみたんですが、〈なかおか〉という産業廃棄物処理業者の代表を務めています」
「非合法か?」
「いえ、許可は取っていまして、許可主体は神奈川県ですが、首都圏各地に保管所を有しています。その一つにえいしょうこうぎょう社の敷地も登録されていました」
「永正鉱業社は、なかおかの子会社ということか?」
 杉平が訊く。
「そういうわけではないようです。なかおかが永正の株を取得していることはなかったので。ただ、なかおかの大株主に、アジアンリテールキャピタルの名前があります。このARCは永正鉱業社の筆頭株主でもあります」
「ほお、それはそれは」
 杉平がにやりとする。
「課長、ちょっと調べてみます」
 杉平が言うと、野田坂は頷いた。
 一礼し、杉平が鑑識課の部屋を後にする。
「あの!」
 りおが割って入った。
「永正鉱業社の件はどうするんですか!」
 野田坂をにらむ。
「ああ、ごめんごめん。さっき、杉平さんが言っていた通り、この証拠では令状は取れないんだよ」
「じゃあ、ほったらかしにするんですか!」
 りおがふくれっ面をした。
「見張っておくしかないね」
 野田坂が返す。
「そんなあ……」
 りおの涙袋が膨れた。大きな瞳が涙でキラキラと光る。
 野田坂は苦笑し、言葉を続けた。
「三課としては動けないが、非番の課員がたまたま現場近くを通りかかるということはあるかもしれんね」
 そう言い、微笑む。
「えっ? それって──」
「いやいや、そういうこともある、という話だ。君は戻って、椎名君と現場の張り込みを続けてくれ」
「わかりました!」
 りおは満面の笑みを覗かせた。
「あー、ただし、見張るだけだ。踏み込んだり、過度に尾行したりしないこと。椎名君にもそう伝えておいてくれ」
「了解です!」
 りおは敬礼すると、鑑識課を飛び出した。
「大丈夫ですか、あれ?」
 蘭子はドア口に目を向けた。
「まあ、一応援軍を出すことは伝わっただろうから、無茶はしないだろう」
「だといいんですけどね」
 そうつぶやき、息をつく。
「一ノ瀬君、なかおかと永正鉱業社が所有している車輛の車種とナンバーを割り出しておいてくれるか。現場に保管している部品を運び出すとすれば、彼らが自家車輛を使う可能性が高い。データは私に送ってくれ」
「わかりました」
 蘭子は首肯した。

▶#8-3へつづく


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