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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.19

【連載小説】彩川は取調べで意外な行動を取り始める──。女性刑事二人が特殊犯罪に挑む! 矢月秀作「プラチナゴールド」#6-1

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。



前回のあらすじ

警視庁刑事部捜査三課の椎名つばきは、捜査の失敗から広報課に出向となった。合コンが大好きな後輩・彩川りおと交通安全講習業務に従事していたところ、通信障害が周囲に発生。現場で二人は携帯通信基地局アンテナを盗みだそうとしている犯人を捕らえた。そのことで椎名は捜査課復帰となり、彩川は異動し て椎名とともに専従捜査班に加わることとなった。 捕らえた犯人の安谷から、裏求人サイトでの仕事の受注を知った二人は、聞き込みを始める。

詳しくは 「この連載の一覧
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 つばきとりおは、留置中のこのと小会議室で面会していた。逮捕時にやり合ってできたすり傷が、まだ顔に残っていて痛々しい。
 小此木は会議室の椅子に横を向いて座り、仏頂面でそっぽを向いている。
 つばきは向かいの小此木をにらみつけていた。りおはつばきの横に座り、二人の顔を交互に見やった。
 二人が同席して、もう十分もつが、二人とも一言も発していない。ただただ、時折睨み合うだけ。
 りおは自己紹介をした後、事案に関しての質問のすべてをつばきに任せるつもりだった。しかし、このままではらちが明かない。
 しびれを切らして、おもむろに口を開いた。
「あのお、小此木さん、ちょっとお伺いしたいことがあるんですけどー」
 てれっとした口調で話しかける。
 小此木はちらりとりおを見て、また、横を向いた。
「あのお……」
「てめえらに話すことはねえぞ」
 小此木は冷たく言った。
 と、つばきがいきなり、天板を平手でたたいて立ち上がった。
 驚いた小此木がひっくり返りそうになる。
「おまえ、いい加減にしろよ! しぶの件もまだ認めてないんだって?」
 つばきの声がつい大きくなる。
「おいおい、待てよ。今日は、渋谷のことは関係ねえって話じゃねえのか? 弁護士先生からそう聞いてるぞ」
 小此木が言った。
 つばきたちは、別件で小此木に確認したいことがあると申し出て、特別に面会を許されていた。
 そのことは弁護士を通じて伝えられ小此木も承知している。
「そっちの話をしてえなら、司法取引してくれよ、刑事さん」
 小此木はからかうような口ぶりで言い、にやりとした。
 人を食ったような態度に、つばきはカチンときた。抑えきれず、怒鳴り出そうとした時、りおが割って入った。
「かっこいい、おじさま!」
 目をキラキラとさせ、小此木を見つめる。
 あまりに場違いな言葉に、小此木とつばきは同時にりおを見やった。
「何言ってんだ、おまえ……」
 つばきが戸惑い気味に声を漏らす。
「現場で初めて聞きました。司法取引って言葉。日本でも司法取引が始まったことは、もちろん知ってますよ。いくつか、そうした事例があることも知ってます。けど、生で聞いたのは初めてです。なんか、アメリカのドラマみたいで、ジーンと来ました」
 りおは両手の指を絡めて握り締め、顔を紅潮させた。
「おまえなあ……。遊びじゃねえんだぞ。どこがかっこいいんだよ、こんなチンピラ」
 つばきは小此木を見据えた。
「なんだと?」
 小此木が気色ばむ。
「かっこいいじゃないですか!」
 りおは握る手に力を込めた。
 小此木は、また想定外の言葉を耳にして、拍子抜けした顔をりおに向けた。
「司法取引ができるってことは、大物ってことですよね」
 りおが言う。
 小此木は〝大物〟という言葉に気をよくしたのか、口元に少し笑みがにじんだ。
「私、刑事になると聞いた時、一度、大物さんと会ってみたいと思ったんですよねー。なんか、ゴッドファーザーみたいないかつい人なんだろうなと想像してたんです。でも、驚きました」
 りおは瞳を見開いた。
「こんな優しそうでダンディーなおじさまだったなんて」
 まぶしげに見やる。
 つばきはあきれて、浮かせていた腰を下ろした。横を向いて脚を組み、天板に肘をのせる。
「大物さんが、どんなことを話してくれるのか、すっごく気になるんですけどー。渋谷の話はしちゃいけないんですもんね。残念です」
「そこまで言ってくれるなら、少しくらいはよ──」
 小此木が口を開こうとした時、りおは右手のひらを立てた。
「ダメです。ここで渋谷のことを聞いちゃうと、司法取引にはならないし、おじさまが不利になるだけ。そんなことはさせられません」
 りおは口を真一文字に閉じた。
 小此木は悪い気はしていなかったようだが、りおの態度をどう理解したものか困惑しているような表情ものぞかせた。
「私と先輩が聞きたかったのは、きちじようの件なんです、おじさま」
 わざと〝おじさま〟という呼び方を強調する。
「吉祥寺? 何かあったのか?」
 小此木がいた。
 つばきは顔を横に向けたまま、聞き耳を立てていた。
「吉祥寺で携帯基地局の窃盗事件があったんです。あ、おじさま。その犯人、私が捕まえたんですよ」
 として、笑顔を見せる。
「ああ、そりゃたいしたもんだな」
 小此木は完全にペースを崩されていた。
 りおは事件のあらましを、自慢も交えながら話した。小此木はただただ聞かされている状況だったが、いつしか体をりおに向け、聞き入っていた。
「でも、その人たち、マッチングサイトで仕事を引き受けただけで、何も知らなかったんです。ビルの屋上にある大きな設備を盗んでおいて何も知らないなんて、びっくりですよね」
「いやいや、そりゃ、どっちかってえと当たり前だ」
「えっ、どういうことなんですか、おじさま」
 りおは身を乗り出した。
 いきなり顔が近づいてきて、小此木は少し背もたれにけ反った。
「教えてください、おじさま!」
 さらに顔を近づける。

▶#6-2へつづく
◎第 6 回の全文は「カドブンノベル」2020年12月号でお楽しみいただけます!


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