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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.18

【連載小説】裏求人サイトと携帯基地局盗難の関係は──。女性刑事が特殊犯罪に挑む!  矢月秀作「プラチナゴールド」#5-2

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。
>>前話を読む

 本庁舎に戻ったつばきは、まず、サイバー班に足を運び、蘭子がピックアップした五名の男の画像を顔写真として見られるよう処理してもらった。
 その画像をプリントしたものを持って、いったん小会議室にこもり、他部署から集めてきた情報も含め、りおと精査した。
 テーブルに両肘をついて前のめりになっているつばきに対し、りおはパイプ椅子にゆったりともたれ、読書でもするかのようにファイルに目を通している。
「この、裏求人サイトにアクセスしたという男女三人、サイトの運営者のこと、知ってるんですかねー?」
「それは調べてみないとわからないよ」
「そうですよねー」
 なんとも緊張感のない返事だった。
 りおはファイルを置いて、プリントした顔写真を手にした。トランプを広げるように持ち、写真を見つめる。
「この中に、安谷にお金を出した人がいるんですかねー?」
「それも調べなきゃわかんないよ」
「ですよねー」
 鼻から空気がれているような緩い返しだ。
 つばきは大きく息をついて、対面のりおを見つめた。
「ちょっとあんた。やる気あんの?」
「やる気があるかないかと訊かれれば、なくはないけど、やってやるぜー!みたいな熱血はないかなーという感じです」
「なんだ、それ」
 うなだれて、もう一度、ため息をつく。
「ファイル見て気づいたこととか、これからどうするかという方針を考えるとか。何かないの?」
「私は椎名先輩の後輩なので、椎名先輩の命令に従います!」
 真顔で敬礼してみせる。
 バカにされているようで、少々腹立たしい。
 りおの気まぐれにも映る態度を見ていると、安谷の取り調べにあたった彼女の姿が幻のように思えてくる。
 つばきは放っておいて、資料に集中した。
 他部署から集めた情報と蘭子の調査結果を突き合わせてみる。
 つばきは昨日、挨拶も兼ねて、りおと共に各部署を回った。
 他部署も、今回の携帯基地局の窃盗に関しては注視していた。
 まずは、組対四課に出向いた。暴力団の資金源として、窃盗が行なわれることも多いからだ。
 四課もその点を調べてはいたが、安谷たちや裏求人サイトに関して、組織が直接関与している形跡は見られないとのことだった。
 少年課は、安谷たちの関係から、半グレ組織や不良少年たちの動向を調査していた。
 盗品売買は、素行不良の若者たちの資金源になっていることが多い。ほとんどは遊び半分のものだが、中には組織だって荒稼ぎをしている少年たちもいる。
 安谷や他の逮捕者は、少なからずそうした者たちと関わりを持っていたが、今回の事案との相関関係は不明とのことだった。少年関係は引き続き、捜査している。
 組対の総務から、国際犯罪に関する資料も取り寄せていたが、今のところ、携帯基地局のアンテナが輸出された事例は報告されていなかった。
「どこから攻めるかな……」
 つばきは、資料を睨んでつぶやいた。
「椎名先輩。ちょっといいですかー?」
「何?」
 間延びしたりおの口調についムッとし、きついまなしを向けた。
「まだ、わかんないことが多すぎじゃないですか。もう少し、他の部署の人たちから上がってくる報告を待った方がよくないですか?」
「丸投げする気?」
 眉間にたてじわが寄った。
「違いますよ。顔、こわーい、先輩」
「思ってないだろ」
 ひと睨みし、
「何が違うんだ?」
 と訊いた。
「専従は、私と先輩しかいないわけじゃないですか。二人であれこれ全部調べてたら、手が回んなくなるでしょ? だから、任せるところは任せちゃった方がいいんじゃないかと思うんです。裏求人サイトにアクセスした子とか、この写真の人たちとかも、他で調べてもらってもいいんじゃないかって思います」
 りおは手に持った写真の束をひらひらと振った。
「じゃあ、私らは何するんだよ」
「先輩、じやの道は餅屋と言うでしょ」
 真面目な顔でつばきを見やる。
「おまえ……。それ、蛇の道は蛇と餅は餅屋が混ざってんぞ」
 つばきは苦笑した。
「わざと混ぜたんです。先輩、専門は窃盗ですよね?」
「当たり前だろ。三課なんだから」
「総務部に来る前、誰か捕まえたって言ってましたよね?」
このな」
「その小此木って人、窃盗団のメンバーなんでしょ?」
「本人は認めないが、間違いはない」
 つばきは深くうなずいた。
「訊いてみたらどうですか、小此木に」
「事案が違う。やつらは宝飾品の窃盗。私らが今追ってるのは、アンテナ窃盗。扱う商品が違えば、組織も違う」
「でしょうけど、大きなくくりでは〝盗み〟じゃないですか。窃盗団に所属してたなら、大きな盗みの情報とかって、漏れ伝わってるものじゃないですか?」
 りおが言う。
「おっ」
 つばきは目を見開いた。
 確かに、りおの言うことには一理ある。
 犯罪組織は同業者の動向に敏感だ。また、複数の組織に関わっている実行者や買い手もいる。それぞれの組織は秘密裏に動いているつもりでも、どこからか情報は漏れるものだった。
 餅は餅屋、蛇の道は蛇。長年、三課にいて、当たり前のことを忘れていた気がする。
「この写真の人物は、組対二課とか四課に回して、暴力団や外国人組織の関係者がいないかどうか確かめてもらってー、裏求人サイトの三人は、三課のお仲間か、少年課の人にあたってもらって。先輩は、いろんな盗犯の人たちを知ってると思うんでー、そっちをあたってみません?」
 りおが言った。
「ずいぶん、的確じゃない」
「元は総務ですから。署内全体のことは、なんとなく把握してます」
 りおがにっこりと首を傾ける。
「いいね。そうしよう」
 つばきはテーブルに手をついて、立ち上がった。

▶#6-1へつづく
◎第 5 回の全文は「カドブンノベル」2020年11月号でお楽しみいただけます!


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