【第208回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第208回】柚月裕子『誓いの証言』
佐方が答える。
「晶さんは、昼は企業のオペレーターをしていましたが、夜は銀座のクラブで働いていました。そのことを知った婚約者が、結婚を取りやめたんです」
「嘘だ――」
思わず口をついて出た。
晶は幼いころ、原じいの跡を継いで蕃永石の職人になると言っていた。大橋も原じいも、最初は子どもの思い付きで言っているのだろうと考えていたが、晶は本気のようだった。晶は原じいが――蕃永石が大好きだった。原じいも表にこそ出さなかったが、心では孫が跡を継ぐと言ってくれることを喜んでいた。石職人を目指していた者が、銀座のクラブで好んで働くとは思えない。
頭に文子の顔が浮かんだ。晶が銀座のクラブで働いていたことを、文子は知っていたのだろうか。
そこまで考えた大橋は、十七回忌で会ったときのふたりを思い出した。おそらく、文子は知らない。もし知っていたなら、無理にでもやめさせただろう。
十七回忌で晶は、まもなく原じいの借金をすべて返せる、と言っていた。それを文子も嬉しそうに聞いていた。姪に、気が進まない仕事をさせて返済の手伝いをさせていたならば、あんな顔はできない。銀座で働いていたことを、晶は誰にも話さず内緒にしていたのだ。
黙り込んだ大橋に、小坂が訊ねてきた。
「この事件を、大橋さんは知りませんでしたか」
(つづく)
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