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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.47

【第207回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第207回】柚月裕子『誓いの証言』

 大橋は小坂に言う。
「俺、アキちゃんに会っているんです」
 晶は原じいの十七回忌に、文子と一緒に来ていた。負い目があり、どう声をかけていいかわからずにいる大橋に、晶のほうから話しかけてきた。
 ――大さん、久しぶり。
 昔と変わらない呼び名で呼んでくれたことに、胸が詰まった。
 大人になった晶は、きれいになっていた。目鼻立ちは変わらない。しかし、内から輝きがにじみ出ているとでもいうのだろうか。笑っていても、どこかしら陰を感じる表情が、その光を際立たせていた。
 ――私、結婚するんだ。
 晶は少しはにかみながらそう言った。
 いま付き合っている相手がいるが、その人と結婚する約束をしている。今日は原じいにその報告をするために来たのだという。
「そのときに、アキちゃんは言っていたんです。いろいろあったけれど、自分はいま幸せだ、おじいちゃんが残した借金もまもなくぜんぶ返済できる。きっとおじいちゃんも喜んでくれてるって――」
 大橋は腿のうえに置いていた拳を強く握り、佐方たちを見据えた。
「いま幸せな人間が、復讐なんてするはずがないでしょう」
 大橋の話に、佐方は眉ひとつ動かさない。冷静な表情でつぶやくように言う。
「それは、なくなりました」
 佐方の言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
「それって――結婚のことですか?」
 佐方が答える。
「そうです。相手から、断られたそうです」
 会ったこともない相手に、怒りが湧いてくる。人間関係は、当人同士にしかわからない事情がある。関係が親密になればなるほどそうだ。相手がどんな理由で、晶との結婚をなかったことにしたかはわからない。しかし、掴みかけていた晶の幸せが相手によって奪われた、そう思うと怒りの感情を抑えきれなかった。
 佐方を睨みながら、大橋は訊ねた。
「どうして相手は、結婚をなかったことにしたんですか。知っているなら教えてほしい」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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