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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.46

【第206回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第206回】柚月裕子『誓いの証言』

 電話を切ると、大橋は佐方たちを見た。
「こっちも出ません」
 大橋の胸に不安が広がる。どうしてこんなに連絡がつかないのか。本当に、なにかあったのだろうか。
 部屋に重い空気が流れる。沈黙を破ったのは、佐方だった。
「私が平尾弁護士事務所に、二十年以上前から蕃永石に関係している方に会いたい、とお願いしたのは、晶さんはある目的のために、偽りの被害届を出したと思ったからです」
「目的?」
 佐方が頷く。
「久保さんへの復讐です」
 大橋は耳を疑った。佐方は続ける。
「被害届を出したあとの晶さんの行動から、私は、晶さんは久保さんへの復讐のために偽りの被害届を出したと思いました。でも、繋がりが見つからない。それでも、その線を調べ続けているなかで、香川、というふたりの接点を見つけました。そして、晶さんが養女であり、その前は原という姓で蕃永町に住んでいたこと、祖父の原滋さんは、蕃永石の職人だったこと、久保さんが弁護士として蕃永石事業協同組合にかかわっていたことを知った」
 そのあと佐方は、平尾弁護士事務所に連絡を取り、今日、ここに来たのだった。
 佐方は大橋を見つめながら、確信がこもった声で言う。
「晶さんは、大好きだった滋さんを死に追いやったことへの復讐のために、当時、滋さんの組合外しにかかわった久保を貶めたんです」
「違う! アキちゃんはそんなことしない!」
 気づくと大きな声が出ていた。
 佐方が反論した。
「でも、いままでの話から、私はそうとしか考えられません。仮に私が晶さんの立場だったら、同じことをしてもおかしくない――そう思います」
 大橋は食い下がった。
「アキちゃんが復讐なんて、あり得ない。そんなこと、する必要がない」
「どうして、そう言い切れるんですか?」
 小坂が訊ねてくる。

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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