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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.45

【第205回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第205回】柚月裕子『誓いの証言』

 大橋が文子と最後に会ったのは、去年、原じいの十七回忌のときだった。ひと月前に、文子から原じいの法事の連絡をもらった。電話で文子は、無理しないでね、と言った。二十年近い時間が経っても、原じいが丁場で亡くなったことは地元の忌事になっている。声をかけられても大橋が困ると思ったのだろう。
 大橋は迷わず、行くよ、と答えた。原じいの法事に参列したことを誰かに知られたら、よく思われないことはわかっていた。だが、普段、供養ができないぶん、せめて節目の法事だけは参列すると決めていた。そのとき、互いに近況を報告したが特に変わった様子はなかった。いまも変わらず、蓮倉市の自宅で過ごしているはずだ。
 大橋がそう答えると、佐方は再び訊ねてきた。
「どこかに引っ越すといったようなことは、言っていませんでしたか」
 大橋は、いいえ、と答える。
「そんな話はしていなかったし、その予定があるとも言っていませんでした」
 若いころならほかの土地への憧れを持つかもしれないが、この歳になって住み慣れた地元を離れるなんて考えられない。それにしても、どうして連絡がつかないのか。なにかあったのだろうか。
 大橋は、ズボンのポケットから自分の携帯を取り出した。画面を開き、アドレス帳から文子の名前を探す。
「どこにかけるんですか?」
 訊ねる小坂に、見つけた文子の携帯番号に発信しながら答えた。
「文ちゃんです。携帯なら繋がるかも」
 携帯番号は、変わらず使用されていた。しかし、電話には誰も出ない。やがて留守番電話に切り替わった。
 大橋は発信音のあとにメッセージを吹き込んだ。
「文ちゃん、俺、大橋だけど。ちょっと話したいことがあるから、聞いたら連絡もらえるかな。お願いします」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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