【第209回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第209回】柚月裕子『誓いの証言』
小坂の言葉に、大橋はひとつの事件を思い出した。テレビの情報番組で、連日、流れているものだ。現役の弁護士が、銀座のホステスに薬を飲ませてホテルへ連れ込んだ、という内容だ。その事件の報道は目にしていたが、まさか晶が関係しているなどと思うはずもなく、日常で耳にする数多の事件のひとつとしか思わなかった。
大橋がそう答えると、佐方が誰にともなく言う。
「久保さんは、晶さんが勤めていた店に、三か月ほど前から行っている。晶さんの結婚話がなくなったのは、ちょうどその頃だ。自分の大切な祖父を辛い目に遭わせ、自分をこんなに苦しめている男が、楽しそうに酒を飲んでいる。それが許せなくて、晶さんは久保さんへの復讐を実行した」
この事件は晶の復讐だと言い切る佐方に、大橋はきっぱりと言い返した。
「そうだとしても、やっぱりアキちゃんが復讐をするとは考えられません」
「なぜ」
佐方が訊ねる。佐方から見れば、晶の復讐はあり得ない、と言い切る大橋のほうがわからないのだろう。不思議そうに大橋を見つめる。
大橋は佐方の目をまっすぐに見つめた。
「そんなことをしたら、文ちゃんが悲しむ。それをアキちゃんはよく知っています。自分をここまで育ててくれた恩人を泣かせるようなことを、アキちゃんがするはずがない」
文ちゃん、そうだろう。
大橋は心で文子に問う。いてもたってもいられず、大橋は再び、文子の携帯に電話をかけた。やはり同じだった。呼び出し音が鳴り、留守番電話に切り替わってしまう。
「いったい、なにがあったんだよ――」
(つづく)
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