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連載

夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」 vol.28

【連載再開!】遣唐使・井真成は太公望の鉤を探す任務を言い渡された。 だが、真成一行に魔の手が忍び寄る!  夢枕獏「蠱毒の城――⽉の船――」#99〈後編〉

夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」

※本記事は連載小説です。

>>前編を読む

 おれが、陶のやつの声を聴いていると、
「やるよ……」
「やればいいんだろう……」
 そんなことを、陶のやつが言い出してさ、むっくり起きあがったんだよ。
 だから、陶のやつがさ。
 それで、闇ん中を歩き出した。
 で、外に出ていったんだ。
 かわやかな――
 そうも思ったんだが、そんなはずはないとおれは思ったよ。
 で、おれは、やつの後を尾行けることにしたのさ。
 陶のやつ、絶対に、どこかおかしい。
“やるよ……”
 って、いったい何をやるつもりなのか。
 好奇心だよ。
 それに、生き残りたかったからね。
 生き残るためにゃ、色んなことを知っておいた方がいい。
 あたりまえだろ。
 それで、おれも、そっと起きあがった。
 忍び足で、寝ているやつらの足元を歩いて、そうっと外に出た。
 そうしたら、外に、陶のやつがいやがった。
 月あかりの中に、こっちに背中を向けて、ぼうっと突っ立ってやがってね。
 すぐそこだったよ。
 それで、どこか、隠れる場所はねえかって考えていると、陶のやつが、こっちをふりかえったんだ。
 青く、が光ってやがってよ。
 こいつ、絶対に、何かにやられちまってるなって、そう思ったよ。
 おれも、さすがに、その時、どうしていいか、迷ったよ。
 そうしたら、
「なんだ、王菲、あんたもきたのか……」
 って、やつが、ぼそぼそと、低い声で言うんだよ。
 いつもの、陶の口調じゃなかったよ。
「あんたも、あの顔のないやつに、頼まれたのかい……」
 陶のやつ、そんなことを言いやがるのさ。
 薄っ気味悪かったよ。
「いったい、何のことだい、教えてくれよ。おれは、厠に行くために起きただけだ。おまえも、そうじゃないのか――」
 おれは、そう言ったよ。
 当然だわな。
 すると、陶のやつ、
「とぼけなくていいんだよ、王菲、一緒にやろう……」
 って、そんなことを言うのさ。
「だから、何をやろうっていうんだい」
「踊るんだよ」
 奇妙なことを言い出した。
「みんな踊ってるじゃないか――」
 って、庭に誰かいるかのように、庭を眺めまわすのさ。
 ほら、
 ほら、
 ほら、
 ってね。
 そこで、おれは、はじめて、やばい、そう思ったんだよ。
 これ以上、陶のやつに関わらねえ方がいいってさ。
 門には、見張りがいるしさ。
 やつらに気づかれたら、話がややこしくなる。
 ここが、潮どきだってね。
「陶、おまえさんのおかげで、出かかった小便もひっこんじまったよ。おれは、もう一度寝直すことにしたよ……」
 で、おれは、あばよって、また小屋にもどって、寝床に潜り込んだってわけさ。
 陶のやつ、もどってきやしなかった。
 陶のやつが、いったい何をするつもりだったのか、顔のないやつってのが、いったい何のことなのか、何にもわかっちゃいないままさ。
 それでもって、あとは、みんなの知ってる通りだよ。
 これで、おれが、昨夜、見たことの全部だよ。
 話し残したことはない。
 ふう……
 これで、助かったよ。
 ほっとした。
 もしかして、このこと、おれだけが知ってると、やばいのかって思ってね。
 ほら、あるだろ。
 昨夜のことが、もし、誰かにとって都合の悪いことなら、それを知ってるおれを、そいつが殺しにくるかもしれねえ。
 陶のやつが、おれと会ったことを、あれから誰かに話してるかもしれねえしね。
 だから、誰かに、これを話しておきたかったんだ。
 それには、あんたらが一番いい。
 これで、昨晩のことを知ってるやつは、六人になった。
 口を封じたいやつがいるなら、この六人を殺さにゃならねえだろ。
 この六人のうち、誰かがおかしな死に方をしたら、今の、おれがした話が原因かもしれねえ。
 その死ぬやつがおれでないのなら、その時、うまく立ち回って、生き残る。
 どうだね。
 隠しごとはなしだよ。
 おれの企みも、みんな、今話した通りだ。
 さあ、今のおれの話が気に入ったかい?
 気に入ったのなら、今度は、真成の兄貴よ、おまえさんが話す番だよ。

(つづく)


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