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連載

夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」 vol.27

【連載再開!】遣唐使・井真成は太公望の鉤を探す任務を言い渡された。 だが、真成一行に魔の手が忍び寄る!  夢枕獏「蠱毒の城――⽉の船――」#99〈前編〉

夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」

※本記事は連載小説です。

これまでのあらすじ

遣唐使の井真成は、閉ざされた城内での殺し合いに参加した。心強い仲間を得て、襲い掛かる銭惟演を打ち破る。かつてこの城内では、人間を贄に使った呪法「蠱毒」が行われ、自分たちの殺し合いもまた蠱毒であったと告げられる。死闘を生き抜いた十二名を含む四十九名は、杜子春と共に旅に出る。一行が立ち寄った屋敷で、真成はひとり呼び出され、この地に伝わる太公望の釣り鉤を探すよう命じられる。その翌日、姿を消した陶友章が遺体となり戻ってきた。

  二十一章 指南車

     (三)承前

とうゆうしように?」
 しんせいが問う。
「ほら、興味のある顔だね、そりゃあ――」
 おうは、唇の右端で笑った。
「何があった?」
「話すよ。話してもいい、あんたらにね……」
 王菲は、真成、椿ちんれいてんらいぼうらんこううんちようの順に、視線を動かしてゆく。
 そして、興味深げに、こちらを見ている他の人間たちをお眺めやった。
「しかし、あんたらだけだ。他のやつらにゃ聴かせるわけにゃいかない――」
 ここで、王菲は、視線を真成にもどした。
「兄貴、兄貴たちの小屋に行こう。そこで、話をしようじゃねえか。その話が気に入ったら、兄貴がそれに見合うだけの話を、おれにしてくれりゃあいい……」
 真成は、
 どうする?
 そういうで、仲間たちを見やった。
「おれはいいぜ。王菲の話、聞かせてもらいたいね」
 黄雲雕が言った。
 他の三人が、眼でうなずく。
「わかった。話を聞こう」
 真成は、覚悟を決めて、そう言った。

     (四)

 こう見えてもね、おれは、みみざといんだよ。
 小さな物音や、気配で眼が覚める。
 酒を飲んで、眠っていてもね。
 まあ、だから、ここまでなんとか生き残ってくることができたってことだわな。
 知ってるだろ。
 おれと、陶友章は、同じ小屋だ。
 で、おれの横で、昨夜、眠っていたのが、陶のやつだと思ってくれ。
 ついでに言っておけば、おれは寝つきもいいんだ。
 ただ、すぐには寝ないよ。
 念のため、他のやつらがみんな眠って、寝息が聴こえてくるまでは、寝たふりだ。
 何故かって?
 決まってるだろ、用心のためさ。
 で、夜半になる前にゃ、みんなが眠っちまったようなので、ようやくおれも寝ることにしたんだよ。
 それで、そのあと急に、おれの眼が覚めたんだ。
 夜半は、もちろんまわっていたよ。
 何で眼が覚めたのかって?
 そんなのは、眼覚めた瞬間にゃ、わからない。
 ただ、すぐにわかった。
 左隣で眠っている、陶のやつの様子がおかしいんだよ。
 それで、おれの眼が覚めたんだ。
 けど、まだ、おれは寝たふりだよ。
 陶のやつの寝息が、荒いんだ。
 それから、声も出している。
 ん……むむむむむむむむ……
 むむむむ……んむんむ………
 って、苦しそうな声だよ。
 声っていうよりは、あれは、低いうなり声っていうほうが近いかね。
 そんなに大きな声じゃない。
 どうにか、隣のおれに聴こえてくるくらいさ。
 でね、何か言ってるんだよ。
「やめてくれ……」
「許してくれ……」
 ってね。
 ちっこい虫が呼吸するような声で、うめき声だか唸り声だかの間に、そんなこと言ってるのさ。
 悪い夢でも、見てやがるのかって、そんなことも思ったよ。
 あの、城で生き残ったんだ。
 陶のやつだって、何人か殺したんだろう。
 自分が殺したやつが夢に出てきて、それでうなされてるのかってね。
 おれかい?
 夢だったら見るよ。
 殺したやつも、出てくるよ。
 りんしんたんなんかが出てきて、恨みごとをひと晩中言い続けるのさ。
 おれは、それを黙って聞いてやるんだよ。
 そうかね、そうかねってね。
 うるせえ、とか、もう行っちまえなんて、そんなこたあ言わないよ。ましてや、許してくれなんて、言やあしねえ。
 ありがとうよ、おめえが死んでくれたんでおれが生き残ったんだ――
 そんなことくらいは、はらの中で思ってるけどね。
 ただ、黙って、っと聞いてやると、いつの間にか、朝にはいなくなっちまう。
 そんなもんさ。
 もしかしたら、こっちが殺されていたかもしれねえしね。
 おあいこさって――少し違うか。
 夜んなると、そんなやつらばっかりが出てくるんだ。
 そんなの、あたりめえじゃないか。
 おかげで、夜はたいくつしないよ。
 寝るのが楽しみでよ。
 さあ、今夜はいったい、誰が出てきやがるのかってね。
 ああ、話の続きだ。
 おれのことを聞かれたもんで、つい別の話になっちまった。

(後編へつづく)


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