【連載再開!】遣唐使・井真成は太公望の鉤を探す任務を言い渡された。 だが、真成一行に魔の手が忍び寄る! 夢枕獏「蠱毒の城――⽉の船――」#99〈前編〉
夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」

※本記事は連載小説です。
これまでのあらすじ
遣唐使の井真成は、閉ざされた城内での殺し合いに参加した。心強い仲間を得て、襲い掛かる銭惟演を打ち破る。かつてこの城内では、人間を贄に使った呪法「蠱毒」が行われ、自分たちの殺し合いもまた蠱毒であったと告げられる。死闘を生き抜いた十二名を含む四十九名は、杜子春と共に旅に出る。一行が立ち寄った屋敷で、真成はひとり呼び出され、この地に伝わる太公望の釣り鉤を探すよう命じられる。その翌日、姿を消した陶友章が遺体となり戻ってきた。
二十一章 指南車
(三)承前
「
「ほら、興味のある顔だね、そりゃあ――」
「何があった?」
「話すよ。話してもいい、あんたらにね……」
王菲は、真成、
そして、興味深げに、こちらを見ている他の人間たちをお眺めやった。
「しかし、あんたらだけだ。他のやつらにゃ聴かせるわけにゃいかない――」
ここで、王菲は、視線を真成にもどした。
「兄貴、兄貴たちの小屋に行こう。そこで、話をしようじゃねえか。その話が気に入ったら、兄貴がそれに見合うだけの話を、おれにしてくれりゃあいい……」
真成は、
どうする?
そういう
「おれはいいぜ。王菲の話、聞かせてもらいたいね」
黄雲雕が言った。
他の三人が、眼でうなずく。
「わかった。話を聞こう」
真成は、覚悟を決めて、そう言った。
(四)
こう見えてもね、おれは、
小さな物音や、気配で眼が覚める。
酒を飲んで、眠っていてもね。
まあ、だから、ここまでなんとか生き残ってくることができたってことだわな。
知ってるだろ。
おれと、陶友章は、同じ小屋だ。
で、おれの横で、昨夜、眠っていたのが、陶のやつだと思ってくれ。
ついでに言っておけば、おれは寝つきもいいんだ。
ただ、すぐには寝ないよ。
念のため、他のやつらがみんな眠って、寝息が聴こえてくるまでは、寝たふりだ。
何故かって?
決まってるだろ、用心のためさ。
で、夜半になる前にゃ、みんなが眠っちまったようなので、ようやくおれも寝ることにしたんだよ。
それで、そのあと急に、おれの眼が覚めたんだ。
夜半は、もちろんまわっていたよ。
何で眼が覚めたのかって?
そんなのは、眼覚めた瞬間にゃ、わからない。
ただ、すぐにわかった。
左隣で眠っている、陶のやつの様子がおかしいんだよ。
それで、おれの眼が覚めたんだ。
けど、まだ、おれは寝たふりだよ。
陶のやつの寝息が、荒いんだ。
それから、声も出している。
ん……むむむむむむむむ……
むむむむ……んむんむ………
って、苦しそうな声だよ。
声っていうよりは、あれは、低い
そんなに大きな声じゃない。
どうにか、隣のおれに聴こえてくるくらいさ。
でね、何か言ってるんだよ。
「やめてくれ……」
「許してくれ……」
ってね。
ちっこい虫が呼吸するような声で、
悪い夢でも、見てやがるのかって、そんなことも思ったよ。
あの、城で生き残ったんだ。
陶のやつだって、何人か殺したんだろう。
自分が殺したやつが夢に出てきて、それでうなされてるのかってね。
おれかい?
夢だったら見るよ。
殺したやつも、出てくるよ。
おれは、それを黙って聞いてやるんだよ。
そうかね、そうかねってね。
うるせえ、とか、もう行っちまえなんて、そんなこたあ言わないよ。ましてや、許してくれなんて、言やあしねえ。
ありがとうよ、おめえが死んでくれたんでおれが生き残ったんだ――
そんなことくらいは、
ただ、黙って、
そんなもんさ。
もしかしたら、こっちが殺されていたかもしれねえしね。
おあいこさって――少し違うか。
夜んなると、そんなやつらばっかりが出てくるんだ。
そんなの、あたりめえじゃないか。
おかげで、夜はたいくつしないよ。
寝るのが楽しみでよ。
さあ、今夜はいったい、誰が出てきやがるのかってね。
ああ、話の続きだ。
おれのことを聞かれたもんで、つい別の話になっちまった。
(後編へつづく)