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連載

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」 vol.6

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」 第6回 西日本新聞社選『戦争とおはぎとグリンピース 婦人の新聞投稿欄「紅皿」集』

北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」

数々の面白本を世に紹介してきた文芸評論家の北上次郎さんが、KADOKAWAの作品を毎月「勝手に!」ご紹介くださいます。
ご自身が面白い本しか紹介しない北上さんが、どんな本を紹介するのか? 新しい読書のおともに、ぜひご活用ください。

西日本新聞社選『戦争とおはぎとグリンピース 婦人の新聞投稿欄「紅皿」集』


書影

『戦争とおはぎとグリンピース 婦人の新聞投稿欄「紅皿」集』(角川文庫)


 書店の文庫コーナーで、角川文庫の棚を見ていたら、この本が目に止まった。これは、西日本新聞の女性投稿欄に寄せられた9年間の投稿から、42本を厳選したものである。
 昭和29年から昭和37年までに寄せられた投稿であるから終戦からずでに9年~17年がたっていることになるが、女性たちの投稿を読むと、戦争の影が濃い。戦地で死んだわが子のことを、それほど簡単に忘れられるものではないのだ。
 小学校低学年のころ、海の家で読んだ本のことを思い出す。食卓に卵が一個出たものの、家族全員が食べる量はなく、そこで、主人公の少年が卵の残りを唇に塗りつけて学校に行くというシーンがあった。クラスのみんなに、おれは卵を食べたんだぞと見せつけるためである。その本を読んだのが昭和30年ごろで、私の家もけっして裕福なほうではなかったが、卵の残りを唇につけて学校に行くという行動自体が理解できなかった。その話を雑誌に書いたら(角川の雑誌だった。何だったかなぁ)、その本を私も読みましたと読者の方から連絡があり、書名まで教えてくれたことを思い出す。
 つまり、昭和30年というのは、このように日本がまだ貧しく、戦争の影がいたるところにあったということである。そういえば、「もはや『戦後』ではない」という経済白書が発表されたのは昭和31年だ。あのころの、日本中が貧しく、哀しみの記憶をみんながかかえていた頃のことを、私たちはいつまでも覚えておく必要がある。西日本新聞社がこの投稿集を2016年に出版したのも、そういうことだと思う。
 ところで、この本の中に「箱根風雲録」という映画の話が出てくる。江戸時代に、幕府の妨害に遭いながら芦ノ湖から箱根へのかんがい用水を引いたドラマを映画化したものだという。調べたら、DVDがきちんと発売されていた。1952年の映画をそんなに簡単に観ることが出来るなんて、すごい世の中だ。

▼『戦争とおはぎとグリンピース 婦人の新聞投稿欄「紅皿」集』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321801000123/


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