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角川文庫キャラ文通信

【キャラホラ通信2月号】『紙屋ふじさき記念館 麻の葉のカード』刊行記念 ほしおさなえインタビュー

角川文庫キャラ文通信

「活版印刷三日月堂」シリーズで大人気の作家・ほしおさなえさん。ほしおさんの最新作・かわいくて優しい「紙小物」にほっこり癒される物語『紙屋ふじさき記念館 麻の葉のカード』が角川文庫より発売されます。作品への想いをたっぷりうかがいました!

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――まずは、本作が生まれたきっかけを教えてください。

ほしお:ここ数年、活版印刷を題材にした「活版印刷三日月堂」というシリーズを書き続けてきたのですが、実はシリーズを書く前から、わたし自身も活版印刷を使った創作活動をしていたんですね。わたしの書いた140字小説を名刺サイズの紙に活版で印刷するというもので、印刷は知り合いの工房に頼んでいたのですが、その縁で活版印刷に触れる機会がたくさんありました。また、作ったものを自分で販売していたので、活版関係のイベントに出店することも多かったんです。

そんななかで、つきあいのある活版クリエイターが参加している紙小物イベントを見に行く機会がありました。活版イベントも毎年すごい人出なんですが、その紙小物イベントも大変な盛況で、会場で販売されている紙小物のかわいさ、幅広さもですが、世の中にはこんなに紙小物好きの人がいるのか! とびっくりしました。

こうした経験を通して、紙小物や紙そのものの持つ魅力にも迫ってみたい、という気持ちが出て来たんです。140字小説の販売の際も自分でちょっとした紙小物を作ってオマケにしていましたし、もともと紙でなにか作ることが好きだったのもあります。

イベントや雑貨店で紙小物を見たり、紙の店や画材店などをめぐったりするうち、和紙への興味が出て来ました。いま紙といえば工場で作られた均質なものというイメージがありますが、むかしはすべて人の手で漉いていたんですね。大量生産には向かないので工場で作る紙にどんどん置き換わってしまったのですが、いまでも各地で手漉きの和紙は作られていて、機械漉きではできないような繊細でうつくしい紙が作られています。

紙というとまず本や文具などを思い浮かべますが、和紙はむかしから障子や襖のような建具としても使われていましたし、着物や食器を包むなど、多様な使い道があります。その幅の広さもおもしろいなあ、と思いました。

そして、和紙をあたらしい表現として模索している若いクリエイターがいることも知りました。活版印刷もそうでしたが、産業としては主流でなくなり大量生産を担わなくなった分、表現の道具としてあたらしい道を踏み出しているような気がします。古い技術をあたらしい感覚で復活させるという動きに魅力を感じているので、伝統工芸にとどまらず、あたらしい紙作りを題材にしてみたいと思いました。


――なるほど! そんな熱い想いで執筆された『紙屋ふじさき記念館』の読みどころ、苦労されたところはどこですか?

ほしお:主人公は吉野百花という大学生の女性。紙小物が好き、でも技術的にはまったくの素人。そんな百花が魅力的な紙小物を作っていく物語なのですが、この紙小物のアイディアを練るのがいちばん苦労したところです。どういう状況で、どんなものを作るのか、どういうふうに発想するのか。そのあたりを考えるのがいちばん大変でしたが、楽しいところでもありました。

ただ、どんな創作活動でもそうだと思いますが、実は「好きなものを作る」ことより、「世に出す」「人に買ってもらう」ことの方がずっとむずかしいのですね。それを必要とする買い手がいなければ単なる趣味で終わってしまう。百花が生きていく道を探す物語だから、趣味で終わらせてはいけない。好きなものを作るだけでなく売るにはどうしたらいいかを考えていくため、紙や紙製品を販売する紙屋を物語の舞台にしました。

主人公も店ももちろん架空の存在ですが、小説を書くときはいつも、この世界のどこかにありそう、あり得る、と思えるような形にしたい、と思っています。そのため紙関係のクリエイターに話を聞いたり、紙漉きの現場を取材したりをくりかえしました。紙漉き体験もしましたし、作中に登場する小物は実際に作れるものにしたいので、自宅でちゃんと試作しました(笑)。


書影

ほしおさなえ『紙屋ふじさき記念館 麻の葉のカード』(角川文庫)


――特にお気に入りのキャラクターはいますか。その理由も教えてください。

ほしお:物語のおもな舞台となるふじさき記念館の館長、藤崎一成です。和紙愛の強い祖母に育てられた紙マニア。藤崎産業の経営者一族のひとりですが、会社の業務には向かないため、二十代後半にしてほとんど来館者のない記念館の館長に。でも和紙が大好きだからポジションには満足している……という変わり者です。

百花に和紙の伝統を教える役割でもあるので、偏屈で少し意地の悪い人のつもりだったのですが、担当編集さんに「あまり怖い人にしないでください! できればイケメンにしてください!」と言われ(笑)、引きこもり気味ですが、純粋な人になりました。好きなことは必要以上に頑張るけれど興味のないことはやりたがらない、紙にはくわしいけれどほかのことはあまり知らない、そういうアンバランスなところが気に入っています。

あとは百花の大学の友人たちですね。百花は大学で小冊子研究会という弱小サークルに所属しているのですが、その部員たちもふじさき記念館の活動にからんできます。本作ではあまり活躍させられなかったのですが、なぜか妙に個性的な人がそろってしまったので、いつかそれぞれしっかり描きたいなあと思っています。


――素敵なキャラクターたちもたくさん登場して、とてもおもしろそうですね! シリーズとしてお考えでしたら、今後の展開について教えていただけますか。

ほしお:シリーズを通して、百花がどのように生きるか具体的に模索していく物語にしたい、と思っています。和紙という未知の文化に触れることで百花が変化し、自分がなにをしたいのか、それを実現するにはどうしたらいいか、現実とぶつかりながら考えていく。

また、実は本社の都合で記念館には存続の危機があり、百花と一成に記念館の未来がかかっているのです。はじめはぎくしゃくしているふたりですが、記念館を存続させるため、しだいに協力しあうようになっていきます。今後はそうしたふたりの関係の変化に迫っていきます。

なにより、全体にものづくりの楽しさを感じてもらえるような話を目指しています。一成の協力で百花がだんだん紙にくわしくなり、自分のアイディアを形にする力を得ていく。と同時に、読者の前に紙の世界が広がっていく。歴史のなかで紙がどのように人々の暮らしや文化を支えてきたか。ただ伝統技術だから、というだけにとどまらず、いまの世界で手作りの紙を生かすにはどうしたらいいか。シリーズを通して、ものと人のかかわりを考えていければ、と思っています。


――最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

ほしお:シリーズを始めたころ父が亡くなったこともあって「活版印刷三日月堂」は全体的に死に寄った物語が多いのですが、本作は未来に進むことに重きを置きたいと考えています。そのため、三日月堂に比べて登場人物が全体に若く、にぎやかな雰囲気です。どう生きるかをテーマに、若く未熟な主人公が迷いながら道を探してゆく姿を描きたいと思っていますので、見守っていただけたらうれしいです。

そして、物語の舞台となるふじさき記念館は日本橋にある設定ですが、実は三日月堂や「菓子屋横丁月光荘」シリーズの世界と地続きです。主人公の百花が通っているのは月光荘の主人公や三日月堂の登場人物が通っているのと同じ大学。本作ではあまり出てきませんが、ゆくゆくはリンクさせていきますので、どうぞよろしくお願いいたします!



ほしおさなえ紙屋ふじさき記念館 麻の葉のカード』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321906000238/


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