【第271回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
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【第271回】柚月裕子『誓いの証言』
傍聴席から動揺の声があがる。大勢の人が椅子から立ち上がり、法廷から出ていく気配がした。おそらく報道関係者だろう。無罪判決が出たことを、外へ知らせに行ったのだ。
乙部が判決理由を読み上げる。
「原告が勤めていた店の関係者および被告人本人の証言から、原告が被告人から言い寄られており、関係を持ったことは明らかである。しかしながら、被害届にあった睡眠導入剤の使用について、被告人がバーで原告が飲んでいた酒に入れたとされる立証がなく、また、原告が被告人に恨みを抱き、復讐のために今回の事件を画策したとする弁護人の主張も、あり得ないと一蹴するには信ぴょう性がありすぎる」
乙部は手もとの書類をめくりながら、言い渡しを続ける。
「弁護人の証言により、本事件が原告の祖父が亡くなったことに起因している可能性は無視できるものではなく、むしろ弁護人が公判で述べた、自分が原告の立場だったら同じことをしたのではないか、と思えるものである。本事件に関しては、それらの出来事が今回の出来事に関係しているのか、それとも無関係なのか、それが明白にならなければ解決はできない」
晶は目を開けた。乙部が、検察側の席に座る岩谷に顔を向ける。
「この判決に不服がある場合、十四日以内に控訴することができます。その際は然るべき手続きを行ってください」
岩谷は、今日のこの判決を予測していたのではないだろうか。顔に驚きや口惜しさといった表情はなく、冷めた様子で乙部の言葉に黙って頷いた。
乙部が前を向いて、声を張る。
「これで、閉廷します」
(つづく)
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