構成・文:吉田大助 写真:伊東武志
※本記事は、湊 かなえ『人間標本』(角川文庫)の巻末に収録された内容を一部改変し転載したものです。
特別対談 廣木隆一×清川あさみ
ミステリーというジャンルでは括れない
廣木隆一(以下、廣木):僕が湊さんの小説の映像化に関わるのは二作目です。一作目は『母性』(二〇二二年公開の映画)で、母と娘の話でした。今回の『人間標本』は父と息子の話なんですが、それだけではないんですよね。母と娘の話でもあるし、一族の話でもある。初めて読んだ時、シェイクスピア劇みたいだなと思ったことをよく覚えています。湊さん、さすがだなと。
清川あさみ(以下、清川):ミステリーというジャンルでは
廣木:人間の世界だけではなくて、
清川:私のシリーズ作品『美女採集』は、美しい人物の「目に見えない本質」を採集し、永遠に眺められる形で封じ込めることをテーマにしています。湊さんの『人間標本』とは文脈が異なりますが、人間そのものを「標本化」する視点には共鳴を覚えました。美と怖さは紙一重の関係にあり、その境界を見つめてみたいという思いが作品の根底にあります。
廣木:美と怖さって、表と裏の関係かもしれない。
清川:私もそう思います。湊さんの作品を一ファンとしても、そしてアートの視点から見ても、まるで新しい物語の形を体験したような衝撃がありました。だからこそ、Amazonさんから「映像化チームに参加してほしい」とお声がけいただいた時は、とても課題が多すぎて気が引き締まりましたし、心から
「自分も標本になってみたいな」と憧れるようなところまでいけた
清川:実は、私は本のお仕事では何度かご一緒したこともあり、湊さんとプライベートでも仲良くさせてもらっているんです。映像化が決まった後でお会いした時に「清川さんの好きなようにお任せします。私には気を遣わないでね」と言ってくださったので、自分の思う通りにやりきることができました。
廣木:小説の中には、アート作品がいっぱい出てきます。少年たちそれぞれが、自分なりのスタイルでアートを制作しているんですよね。それを映像でどう表現するのかは、かなり悩んだところでした。映像の中で、アートがストーリーから飛び出してもいけないし、逆にアートがストーリーに負けていてもダメなんです。清川さんは、そこを中和するお仕事をしてくださった。
清川:ドラマに登場するアートは、主に私が選定・ディレクションを担当しました。廣木監督がおっしゃった通り、アートとストーリーを自然に
廣木:そうだったんですね。
清川:例えば、ダイくん(黒岩大)の黒ペン一色のペンアートを描いたアーティストは、SNSで見つけて直接声をかけたんです。まだとても若い作家で、普段は動物を描くことが多いので「人間は描けるかな……」と不安そうにしていましたが、「絶対に描けるよ!」と背中を押してお願いしました(笑)。また、ショウくん(石岡翔)の壁画を手掛けたアーティストも、芸術祭などで調べて見つけて依頼しました。
廣木:ショウくんの絵を描いてくれたアーティストは、撮影現場にも来てくれましたよね。ショウくんはコンクリートの壁に絵を描く子なんだけれども、役者も同じようにリアルに描くシーンがあって。現場でレクチャーをしてくれたおかげで、役者も不安なく描けたし、演じることができたと思います。
清川:一番大変だったのはやっぱり、標本ですね。
廣木:少年役の役者の全身をスキャンして、型取りして、現物を作って。
清川:私もその撮影に立ち会わせてもらったんですが、「どのポーズが一番その蝶になるか?」と計算しながら、少年役の役者さんたちにいろいろなポーズをしてもらいました。表情には一番こだわりましたね。グロテスクにならないように、「美しくあれ」と思っていました。
廣木:できあがった人間標本は、目が合うとドキッとしました。あれもまたアート作品なわけじゃないですか。撮影現場では盗まれないように、ガードマンを付けていたらしい(笑)。清川さんや美術スタッフのおかげで、本当にいいものができたんですよ。ヘンな言い方ですけど、不快感だけではなくて、「自分も標本になってみたいな」と
湊さんの作品ってゴールがない。小説とドラマを行き来してほしい
清川:蝶から見た世界をどういうふうに表現するのかも、みんなでこだわって作ったところです。
廣木:少年たちがある瞬間から蝶に見える……という場面の演出は、一番苦労しましたね。ファンタジーにならないように、芝居を重ねて重ねて。この作品は、役者も相当大変だったと思いますよ。ただ、僕は現場ではほとんど何も言っていないかもしれない。
清川:逆にすごい!
廣木:確認はしますよ? 撮影の前に役者たちと話をして、「このシーンはこう演じたいと思っています」「うん、分かりました」と。僕は枠にハメるよりも、俳優それぞれのキャラクターを生かす方がいいものになると思っているんです。実際にみなさん、僕の想像を超えていきましたね。
清川:ビジュアル撮影で五人の少年たちが初めて揃った時は、驚きました。誰がどの登場人物を演じるのかが、説明されなくても分かったんです。(榊)至役の
廣木:お父さん(榊史朗)を演じてくださった、
清川:西島さんも、役にぴったりでした。西島さんは、研究者的な、物静かで少しオタク気質な部分がある……と私は勝手に思っていたので(笑)。
廣木:西島さん、ぜんぜんご飯を食べなかったんですよ。どんどん
清川:できあがった映像を観るのが楽しみです。一之瀬留美を演じた
廣木:宮沢さんはプライベートでも絵を描かれているんですよ。その経験が今回の役に生きているのかな、と思います。杏奈(留美の一人娘)役の、
清川:いつも思うんですが、湊さんの作品ってゴールがないと思うんです。読むたびに発見があるんですよね。特に『人間標本』は、レイヤーが何層にも重なるような仕掛けがたくさんあるし、それを映像化したらまた見え方も変わってくるはず。小説とドラマを行き来して、楽しんでいただけたらなと思います。
作品紹介
書 名:人間標本
著 者:湊 かなえ
発売日:2025年11月21日
イヤミスの女王、新たなる覚醒
人間も一番美しい時に標本にできればいいのにな――。ひどく損壊された6人の少年の遺体が発見されると、社会はその事件の異様さに衝撃を受けた。大学の生物学科で蝶の研究をする榊史朗は、蝶の世界を渇望するあまり、息子を含む6人の少年たちを手にかけたと独白する。蝶に魅せられ、禁断の「標本」を作り上げたという男の手記には、理解しがたい欲求が記されていた……。耽美と狂おしさが激しく入り乱れる、慟哭のミステリ。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322409000509/
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『人間標本』作品概要
タイトル:『人間標本』
配信開始日:2025年12月19日(金)より世界配信開始
話数:全5話 ※一挙配信
出演:西島秀俊 市川染五郎
伊東蒼
荒木飛羽 山中柔太朗 黒崎煌代 松本怜生 秋谷郁甫
宮沢りえ
原作:湊かなえ 「人間標本」(角川文庫/KADOKAWA 刊)
監督:廣木隆一
美術監修・アートディレクター:清川あさみ
主題歌:「愛情」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:Amazon MGM スタジオ
作品ページ:https://www.amazon.co.jp/dp/B0FWX9LPYQ
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