【第270回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第270回】柚月裕子『誓いの証言』
第十四章
晶は首を巡らせて、法廷内を見回した。
法廷内は多くの人で埋め尽くされていた。傍聴席に空きはない。そのほとんどが報道関係者だ。今日、被告人の久保がどのような判決を言い渡されるのか、聴きにきているのだ。
晶は傍聴席の最前列に座っていた。一週間前に行われた公判のときと同じ席だ。この席は自分で選んだ。証言台に立つ被告人――久保が一番よく見える場所だからだ。
開廷十分前になり、法廷の前方にある扉が開いた。裁判官たちが入廷してくる。三人の裁判官は、前回と同じだった。
裁判長の乙部が、真ん中の席に着く。
晶は目を閉じた。できることはすべてやった。あとは裁判官に判決を委ねるだけだ。
午後の一時になり、乙部が開廷を告げる。
「それでは、開廷します。被告人は前に出てください」
座っていた椅子から立ち上がり、久保が証言台に立った。肩を丸め、俯く。その姿は、神父を前にしたキリスト信者を思わせた。
乙部は久保を見ながら言う。
「被告人、久保利典に対する不同意性交等罪について、次のとおり判決を言い渡します。主文――」
法廷内が息を呑む気配がする。
乙部の声が、静かな法廷に響き渡った。
「被告人は、無罪」
晶は目をきつく閉じた。
(つづく)
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