【第163回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第163回】柚月裕子『誓いの証言』
「それは嬉しいですね」
素直に口から出た言葉だった。
スウェーデンがある北欧の自然は、森や湖だけではなく岩盤も多く見られる。そこで作られる工芸品は、自然素材を使ったものが多く、石材を使った工芸品も少なくない。特に近年においては、北欧ならではの色合いやデザインが注目を浴び、北欧家具や雑貨を公共施設や個人住宅に取り入れるケースが多くなっていた。
加藤が奥山に同意を求めるように言う。
「そこで蕃永石が関心を集めれば、国内だけでなく海外からも石材の注文があるかもしれませんね」
奥山が加藤の言葉に頷く。
「蕃永石は、もっと世界で評価されるべきものです。これをきっかけに蕃永石の事業が世界に広がってくれることを望んでいます。それはひいては、香川が発展することに繋がります。香川の良さを、もっともっと多くの人に知ってもらいたいです」
奥山が、熱が入った口調で語る。
三人で話していると、出入口のほうから勝也がやってきた。勝也は三人を見つけると笑顔で歩み寄ってきた。それぞれの顔を見ながら、芝居がかった様子で肩を
「いやあ、やっと招待した人たちを、みんな送り出したよ」
「お疲れさまでした」
加藤が声をかけると、勝也はそれを制するように手を加藤にかざした。
「疲れているのは私より、スタッフだ。こういうイベントは、準備が一番大変なんだ。なあ、大橋くん」
急に話を振られた大橋は、返事に窮した。どう答えていいか迷っているうちに、勝也が話を続ける。
「ここに展示するための石を蕃永町から運んで設置するだけでも大変なのに、会場でお客さんの対応もしたんだ。もうへとへとだろう。よくやってくれた。おかげでフェアは大成功だ」
労をねぎらう勝也の言葉に、大橋はなんだか胸に熱いものがこみあげてきた。
(つづく)
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