【第161回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
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【第161回】柚月裕子『誓いの証言』
バックヤードから会場へ出てきた大橋は、フロアを眺めた。会場は多くの来客で埋め尽くされている。フェアの成功を実感し、安堵の息を漏らす。
会場をゆっくり歩いていると、後ろから声をかけられた。
「やあ、大橋さん」
香川県庁の観光文化推進部の部長――
大橋はふたりに向かって一礼した。
加藤が会場を見渡し、満足そうに頷く。
「今回のフェア、大成功ですね。企画をもらったときは、正直ここまで人が集まるとは思っていませんでしたよ」
香川県立美術館では、一週間前から蕃永石の展示会を行っていた。タイトルは「蕃永石ものがたり・過去から未来へ」。蕃永石の歴史をひも解きながら石の魅力を紹介し、蕃永石の認知度を高めようという趣旨のものだった。今日が最終日だが、連日、多くの人が美術館を訪れた。
この企画は一年前に、勝也が立ち上げた。蕃永石の事業を新しい形で広げていく、という方針を固めるために、考えられたものだ。
いままでも蕃永石を周知してもらうためのイベントを行ったことはある。しかし、それは地元の蕃永町で行われたもので、町内の祭りや盆踊りといった行事にくっつけるくらいの規模のものだった。
それでも、そのイベントはたくさんの人を喜ばせた。町のいたるところに蕃永石でできた燈籠が置かれ、夜道を幻想的に照らし出したり、大きな公園でフリーマーケットを開き、そこで蕃永石で作られた小物やオブジェを売ったり、地元の人間が工夫を凝らした催しは住人たちだけでなく、観光客も楽しませていた。
(つづく)
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